短編小説/ショートショート

愛妻弁当

「ごめんなさい、今日はお弁当作れなくて」
 今朝、妻にそんな風に言われたのを、お昼の時間になって思い出した。
 最初はコンビニへ行ったのだが、コレというものがなく、会社近くのスーパーへ足を向ける。
 そこのお弁当コーナーを覗くと『愛妻弁当』という名前のついた弁当を見つけた。
 木目をプリントしたポリスチレン容器で、なかみの見えない作りになっている。値段はワンコインの500円と、この店ではお買い得だ。
 どうせ名前だけ、と思ったものの、何が入っているのか気になったので、試しに買ってみた。
 会社のデスクに戻り、フタを取る。
 彩りや栄養バランスの考えられたおかずに、真っ白なごはん。食べてみると、普通にうまい。
 コンビニ弁当とも、一流シェフが拵えたものとも違う、家庭レベルでのおいしさだ。
 見た目は悪くないし、普通のお弁当と違ってより手作り感が感じられる。これはこれで悪くない買い物だ。
 辺りを見渡すと、同じような容器の弁当を食べている社員が何人かいる。
 愛を買う時代なのかな、と思いながら、500円の弁当を平らげた。

 帰宅して、妻に弁当の話をしようと考えていると、
「わたし、パート先を変えようと思うの」
 そんな話を聞かされた。
 今の職場に不満が多いことは聞いていたし、近所の仲が良い奥さんも行っている職場だそうなので、特に反対はない。
 その旨を告げると、妻は嬉しそうだった。

 またお弁当のない日、あのスーパーへ弁当を買いに行くとやはり『愛妻弁当』が売っていた。
 会社でフタを取ると、やはり普通にうまそうな内容だ。
「あ、先輩の弁当には卵焼き入ってるんですね、良いなぁ」
 同じように『愛妻弁当』を買っていた後輩にそう言われた。後輩のものと比べると、なかみがだいぶ違う。
 後輩に羨ましがられた卵焼きを口にいれると、よく知った味がする。
 妻の作る卵焼きの味だ。

 そういえば、妻の新しいパート先の仕事内容を聞いていない。

2018-03-11

あの頃のトモダチと話す方法

イマジナリーフレンズ。
子供の時にだけ逢える、自分にしか見えない、自分だけのお友達。

たいていの子は、そんな存在を忘れていることが多い。
当たり前だ。
だって、周りに自分の世界しか存在しない頃だから。

そんな彼らと、再び話をする方法があるらしい。
といっても、チャットアプリで会話をするという形で、だそうだ。

方法はカンタン。
深夜零時、大きな道路の歩道橋に上がります。その時、なるべく道路の真ん中になる位置で止まってください。
次に、持ってきていたスマートフォンを取り出し、チャットアプリを起動します。続いて、チャットアプリにある、近くの人と連絡先を交換するための通信機能を起動。
周囲に誰もいないことを確認したら、そのままの状態で、スマートフォンを持った手を上にあげ、左右に振ってください。
画面は真上を向いているのが理想的です。

すると、誰かが連絡先に追加されています。
アイコンはデフォルトの状態であることがほとんどだそうですが、名前はあなたが昔、呼びかけていた名前になっているはず。

それが、あなたの中から生まれ、忘れてしまった、あなただけのお友達。

話しかけてもいいですし、話しかけられることもあるそう。
昔の話をしたら、意外と盛り上がるかもしれません。

ここで注意したいのが、逢いたいと言ってはいけないこと。

連絡がとれたということは、すぐそばにいるということなので、逢うことはできると思います。
ただ、逢いたいと言った人が、軒並み居なくなってしまったという噂もあるんです。なので、そこだけは注意してくださいね。

2018-01-23

月灯

 「月が綺麗だねぇ」
振り返ると、男が立っていた。
よれよれのシャツに、緩めたネクタイ、頭はぼさぼさ。見るからにくたびれた、私より少し上くらいの、サラリーマン。
男の薄い唇からふぅっと吐き出された煙が、白くふわりと舞って消えた。
「…月?」
持っていた煙草を口に銜えて、上を指差す。つられて顔をあげると、真ん丸の月が光っていた。
灰色の模様がくっきり見えるほどに鮮明な、白い月。
「屋上にでも上がらなきゃ、しっかり見えないからねぇ」
両手の親指と人差し指で作った四角に、月を捕らえて、彼はにやりと笑った。
「…君は月を見に来た、わけじゃなさそうだね。邪魔しちゃったかな」
ビルの屋上の、フェンスの向こう側にいる私に、彼は無表情で言った。
「……」
ふぅっと白い煙が揺らめいて消えた。
「…まぁ、好きにしたら?別に止めない。他人の人生の選択に、他人が口出すもんじゃないし」
うーん、と背伸びをして煙を吐いた後、彼は「あ」となにか思い出したように口を開けた。
「ひとつ、教えてやるよ。
 満月の夜は、気分が高ぶったり、悪い事考えたり、しやすいんだと。
 だから、事故とか事件とか、多いんだってさ」
煙がまた空中に舞った。

そして、彼はくるりと後ろを向き、出入り口の方へ歩き出した。それから、ポケットから紙切れを取り出し、ビリビリに破いて、
「じゃ、俺は、帰るわ」
そう言って、ドアの向こうに消えた。
月が綺麗だ。
夜の空が、うすら青く感じるほどに、強烈な光。
足元を見る。
車のバックライト、店の灯り、沢山の光が渦を巻いている。
不意に、空の灯りが陰る。雲が出てきた。
「…行くか」
私はそう呟いた。

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物書き向け満月企画参加作品

2011-02-18

白い世界

物心がついた頃、僕にはすでに両親がいなくって、厳しいけれどとても優しい義母の大きな家に住んでいた。
周りには僕と同じような子供たちが沢山いた。
同じような僕らはとても仲が良くて、一つの部屋に何人も一緒に寝ていたりした。

あるまだ朝近い暗い時間に、僕たちは義母にたたき起こされた。
「さっさとおし!夜が明けちまうよ!」
大きなトラックの荷台に、僕らは押し込められた。
「何処に行くの?!ねえ!義母さん!」
僕たちは一生懸命叫んだけど、義母も義父も、知らん顔。
トラックの荷台が満員になると、
「さ、出発するよ!」
ガタガタ揺れながら、僕らを乗せたトラックは動き出す。
不安な僕らはうずくまり、肩を寄せ合った。泣いている子もいた。
僕ら、どうなるのかな…
もう悪戯しません、いい子になるよ。
「いい子に育つのよ」が義母の口癖だった。
いい子になるよ、いい子になるよ。
悲しくて悲しくて、僕はしくしく泣いた。

泣き疲れて眠ったらしく、目が覚めるとトラックは目的地に着いたようで止まっていた。
何人かずつトラックから降ろされ、何処かへ連れて行かれる。
僕が一番最後に降りると、義母は荷台の扉を閉めて、
「いい値段で売れておくれよ」
と、まがまがしい笑顔でそう言った。
あぁ、僕らはやはり売られちゃうんだ。

僕らは見世物小屋のような場所に何人かずつ箱に入れられて並べられた。
気付けば太陽は昇っていて、辺りはとても明るかったけれど、箱の中の僕らは暗かった。
みんな口々に自分達の悪戯やいけない行いを告白しては、泣いて反省した。
けれど、義母は
「いらっしゃい、いらっしゃい!いい子が揃ってるよ!」
なんだか楽しそうにそう叫んでいた。
太陽が高く登っていくにつれ、一人、また一人、買われていった。
僕はいつまでも買われなくて、小屋の隅っこでうずくまっていた。
「やれやれ、見た目が悪い奴らばかり売れ残る」
義母の苦々しい台詞が小さく降ってくる。
僕は大声をあげて泣き出したかった。けれど、本当に悲しいのに、涙なんて出ないんだ。
その時だった。
「その子、いただけるかしら?」
優しい声が僕を指差した。
そちらを見ると、柔らかい笑顔の女の人が立っていた。
「毎度!」
義母が喜々としてお金と引き換えに僕を引き渡した。
女の人は僕を優しく見下ろして、
「さぁ、帰りましょ」
とにっこり笑った。

女の人の家に着くと、僕は知らない子達と同じ部屋に入れられた。
見たことはあるような。あ、あの見世物小屋があった場所にいた子達だ。
「こ、こんにちわ」
初めて会う子達だから怖かったけど、思い切って話し掛けてみた。
「やぁ」
素っ気なく返された。か、会話を続けなきゃ!
「君達は何処から来たの?」
「ずっと北の方。あんたは?」
「僕も北の方…。お、同じだね!」
うぅ、知らない子とどうやって会話を続けたらいいんだ!
「…ねぇ、君は怖くないの?」
「何が?」
「こ、これからどうなるのか、怖くないの?」
「なんだ、お前、何も知らないのか。俺らは食われる為に買われてきたんだよ」
「なんですって!」
食べられちゃう?!あんな優しそうな人に?!
「そんな…」
「何言ってんの、それが俺達の役目じゃないか。美味しく食べられる為に生まれてきたんだぜ?」
「…そうなの?」
「そうだよ!俺達はまだラッキーだぜ?料理上手で最後まで残さず食べてくれそうな人に買われたんだから!
今じゃ最後まできっちり食べてくれる人、少ないんだ。美味しく料理されても、『マズイ』とか『もういらないー』とか言って食べてもらえないんだ。
せっかく生まれてきたのにさ!」
あぁ、そうか、そうなんだ。僕らは食べられる為に生まれて来たんだね。
「あんな優しそうな人に食べられるなら、悪くないや」
「俺らはあの人を笑顔にするために生まれてきたんだよ」
紅い顔の彼がにっこり笑う。

僕らは仲良く刻まれて、鍋の中で溶け合った。
白濁の世界が意識を覆う。
遠くで小さく楽しそうな声が聞こえる。

(おかあさん、きょうのおゆうはんなぁに?)
(きょうはあなたのだぁいすきなシチューよ)
(やったぁ!)

嬉しそうな声。
僕もとても嬉しいよ。
僕はきっと美味しいから、楽しみに待っていて。

どうかあの人がもっともっと笑顔になりますように…。

2010-12-26

透明の天秤

困ったなぁ。
いやね、どうにも頑固な人が居るんですよ。
ここに「透明の天秤」があるんですがね、あの人と私じゃ意見が合わないんです。
光っている珠1個と、光っていない珠1個、左右の皿に1個ずつで釣り合うはずなんです。
大きさも重さも一緒で、光っている光っていないの違いしかない。
ね?釣り合うはずでしょ??
実際に「透明の天秤」に乗せたら釣り合ってるんです。
私の目には、右には光ってる珠、左には光っていない珠が乗っていて、水平にしか見えないんです。
だけどね、あの人は釣り合ってないって言うんですよ。
そうそう、私の向かい側にいる、あの人ですよ。
私が1個ずつで釣り合っていますよね?って言っても、釣り合ってないって言うんです。
光っていない珠は軽すぎるから、もっと乗せろって。
2個乗せてもまだ。
3個乗せてももうちょっと。
4個乗せて、あぁいいんじゃない? だって!
光っている光っていないの違いしかないのに、おかしいと思わない??
貴方の目には、どう映ってます?この「透明の天秤」
傾いてますか? 傾いていませんか?

2008-05-15

「こんばんわ。ニュースの時間です」

「先ほど政府より次のような発表がありました。
『本日より、今日この日を【絶望の日】と制定いたします。
 この【絶望の日】にきちんと絶望できた人にはもれなく、
 政府より賞賛金100億、
 厚生労働省より不老不死の特効薬、
 科学技術庁よりスペースシャトル1基、
 以上を進呈いたします。』
 とても素晴らしい賞品ですね。
 みなさん頑張って絶望しましょう。
 それでは、今日はこの辺で」

2008-02-15

日常の1頁

あれは?
さあ?なんだろう。
近くで見てきなよ。
僕がかい?嫌だよ。
気になるなら君が見て来たらどうだい。
嫌だよ、気味が悪い。
じゃあ一緒にみようよ。
分かった。
じゃあせーのでめくろう。
せーの。
せーの。
なんだ、お前かよ。
覗き見が本当好きな奴なんだなぁ。
ほっといて行こうぜ。
あぁ。
紙の中から出て来た彼等は、そう言って僕の前から消えていった。
僕は開いていた本を閉じ、本屋を出た。

2008-01-30

星降る夜に

昔、おばあちゃんが言っていた。
「誰かが死んだり、死んでしまう前には、星が流れて消えるんよ。
みんな、お空に自分のお星さんを持っていてね。
お星さんが消えたら、その人の命もおしまいなんよ」
二階のベランダから、遠く揺れる、ネオンの洪水を眺めながら、そんな事を思い出した。
ふと、空を見上げてみたら、星が綺麗な弧の字の尾を引いて、幾筋も幾筋も流れていった。
隣の部屋のテレビが、細い声で、小さな国の戦争が終わった、と言っていた。

2007-12-22

忠告

お腹が空いたので何か食べようと、乾麺やお菓子を保管している戸棚を開けた。
すると中に頭だけのそいつがいた。
人間の頭の倍くらいは大きいその頭は、戸棚の中の食糧を食い散らかしていた。
ぽかんとしているとそいつはこちらを見て、
「悪いもんばっか食べ過ぎ」
と不機嫌そうに言った。
「す、すいません」
思わず謝り、戸棚の扉を閉めた。
しばらく呆気にとられていたが、はっと思い直して再び戸棚を開けた。
戸棚の中の食糧は跡形もなく消えていて、仕方がないからコンビニに買い物に出掛けた。

2007-03-25

昇降

私はあの人が大好きだから、猛烈にアタックして、向こうも根負けして結婚したの。
毎日あの人のために食事を作って、掃除をして洗濯をして。
だからって女には手を抜いてないのよ。
ちゃんと毎日お化粧して、お洒落にも気を抜かない。
だからかしら?あの人はいつも優しい。
幸せの階段を昇り続けているつもりだったわ。
だって幸せだから。
でも知ってしまったの。
贅沢で美しい生活をする度に、借金が膨れ上がっていたこと。
あの人が優しいのは、他に女がいる事を隠すため。
ねぇ、この階段は上に伸びてるの?下に伸びてるの?
ねぇ、私は昇っているの?降っているの?
どっちが上か下か判らない。

2007-03-24

黒い羊小屋

二次創作では「くろひつじ」名義で活動しています。

【詳細はこちら】

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