短編小説/ショートショート

私は殺したい程あの子が嫌いだった。
殺せるものなら殺したいと思っていて、ある日、偶然夜道であの子と出会った。
向こうは気付いていなくて、私は偶然包丁を持っていた。
絶好の機会だったが、はたと思い直した。
あの子には、あの子を大好きな人がいて、あの子を殺したら復讐されるんだろうな。
そうして私が殺されたら、私を好きなあの人が、あの子を好きなあの人に、復讐をするんだろう。
あの子を好きなあの人を愛してる人が、私を好きなあの人にきっと復讐するだろう。
ああ、いつまでも憎しみの連鎖は止まらない。
それなら、ここで止めておこう。
私は包丁をしまい、踵を返す。
すると、背中に熱い衝撃が走って、思わず振り返った。
あの子が、包丁を持って笑っていた。
せっかく、憎しみの連鎖を止めたのに。
私を好きなあの人が、あの子に復讐をするんだろう。
そうしてあの子を好きなあの人が、私を好きなあの人に復讐をするんだろう。
止まらない。
いつまで経っても止まらない。
それがなんだか悲しくて、涙が零れた。

2007-03-22

えのぐ

白と黒と黄色のえのぐ。
白を多めに混ぜたけど、白くはならなかった。
黒を多めに混ぜたけど、黒くはならなかった。
黄色を多めに混ぜたけど、黄色くはならなかった。
どんな分量で混ぜても、同じ色にしかならなかった。

2007-03-21

プレゼント

「今日お誕生日ですよね。おめでとうございます」
その後輩は、部活動が同じだった。
ある晴れた日の放課後、校舎と体育館を結ぶ渡り廊下で呼び止められ、少し大きく膨れた袋を渡された。
「あ、ありがとう」
紙とも布とも言い難い素材の袋が、赤いテカテカのリボンでキュッと口を縛られ、造花もくっつけられている。
プレゼントをその場で開けるのは礼儀だから、持っていた鞄を床に置き、リボンに手を伸ばした。すると彼女は、笑いながら、
「先輩、明日が何の日か知ってます?」
にこやかだが、好きになれない笑顔だった。
「いや?」
素直に答えた。
「私の誕生日なんです」
「ふーん」
答えながら、テカテカのリボンを解いた。
彼女の笑顔は相変わらず気に入らない。
そう思っていたら、真っ暗な世界に一人きり。
あれ。
空は明るい。
見上げたら、ギザギザに切り取られた空があって、あの気に入らない笑顔が覗き込んでいた。
「ありがとう、先輩」
「おい、どういうことだ!」
「どうって、そのままですよ」
上からこちらを覗き込む、楕円の瞳がへの字に曲がった。
「素敵なプレゼント、ありがとう」
ギザギザに切り取られた空が萎んで消えた。

2007-03-20

ひとりぼっち

ひとりぼっちが寂しいから、誰かと繋がろうと、インターネットで見つけた掲示板に書き込んだ。
「誰かお話しませんか」
メールがきた。
「お話しましょう」
他愛もない会話を続けた。
学校の事、家族の事、つまらない日常と、見えない未来のこと。
寂しくはなかった。
でも、つまらなかった。
そして、そのうち寂しさが増してきた。
インターネットで見つけた掲示板に書き込んだ。
「誰か遊びませんか」
何通もメールがきた。
「一緒に遊びましょう」
指定の場所にみんなで集まって、ご飯を食べて、他愛もない会話を続けた。
寂しくはなかった。
楽しかった。
でも、満たされなかった。
繋がったように見えただけで、繋がっていなかったんだ。
ひとりぼっちでわんわん泣いた。

2007-03-18

もっとも残虐な殺し方についての考察

この世で一番無残で残忍な、もっとも恐ろしい残虐な殺し方とはなんだろう。
死とは、全てに於ける希望を絶たれるもので、全てに於いて朽ちるのが普通である。
それを踏まえた上で、残虐な殺し方を考えると、どうなるのか。
よく、ホラー映画で手足を切断だの、鋼鉄の紐で縛り上げるだの、眼球に針を刺すだのあるが、それらはただ痛いだけで、残虐に見えるだけである。
恐ろしいとされる犯罪、殺し方は、一見残虐な、最終的に死を与えたものが該当するようだが、それは果たして本当の残虐な殺し方かどうか。
よくよく考えれば、死そのものは残虐な殺し方から遠くなる気がする。
何故なら死は肉体からの開放であり、脱出であるからだ。
殺すという行為は、死を与えることだが、肉体に死を与えては、相手を残虐な痛みから逃す事にはならないだろうか。
凄まじい暴行を与え続けると、人は死という開放を望む。
それは、希望を断つことが目的である殺戮から、離れている事になるだろう。
前述した通り、死とは、全てに於ける希望を絶たれるもので、全てに於いて朽ちるのが普通である。
卒ることは始まることであり、そこに微塵たりとも希望がないことは有り得ない。
ならば、もっとも残虐な殺し方はなんであろう。
私が思うに、生かす事であると考える。
終わりの知れない肉体への苦痛と、心に考える感情すらも砕く責め苦を与え続け、死という逃げ道すらをも断つ、それが一番残虐ではないだろうか。
しかし、ここには一つ穴がある。
壊れるという現象だ。
壊れてしまうと、あらゆる苦痛が快楽になり、それを楽しみ始める。
それはある種の逃げ道であるが、それを断つ手段はない。
「駄目だ。結論が出ない」
結論までしっかり書かなければならないレポートの提出期限は明日だ。
なぜこんなレポートを書き始めたんだ。
始めの方を読んでみる。
先日、母方の祖母がなくなりました。
死因は通り魔に刺され、出血多量。怒りを覚える死因です。
そしてこれを機に「死」とは何か、特に「殺す」という事について考えました。
理由にインパクト感じたからか。
それとも残虐な文章を書きたかったからか。
どちらにせよ、これじゃダメだ。

2007-03-15

雨の日の遊び方

雨の日には外に出て、アレを探す。
よぉく見ていないと見つからない。
空の彼方から落っこちて来るアレ。
おじいちゃんは
「ホントはみんな見えてるんだけど、気付いてないんだよ」
と言っていた。
名前は教えてくれなかった。
アレ、とだけ言っていた。
何なのか知りたくて、雨の日も晴れの日も外に出なかった私が、アレの正体を知りたくて、外に出ていくようなった。
外に出させる為の、おじいちゃんの嘘だったのかな。
でもあるような気がするんだ。
アレ、が。
たまにおじいちゃんと一緒に外に出て、アレを探した。
結構楽しかった。疲れたけど。
だから嘘でも本当でも、どっちでもいいんだ。
見つかっても見つからなくても良かったんだ。
雨の日には外に出て、アレを探す。
見つかっても、見つからなくても良いんだ。
いつまで経ってもアレが何か分からないけど。
それでいいんだ。

2007-03-14

キレイ

「キレイ」が好きだから「キレイ」だけを集めたの。
たくさんたくさん集めたの。
「キレイ」だけのはずなのに、ちっとも「キレイ」じゃなくなった。
私の「キレイ」は何処にいったんだろう。
「キレイ」の山を探してみたけど見つからない。
だから私は「キレイ」の山をまるごと捨ててやった。
あとに残った「キレイじゃない」山の中を探し回った。
そしたら、その奥底に「ホントのキレイ」が落ちていた。
よかった。
私はまだ「キレイ」になれる。

2007-03-13

ある夢の話

夢を見た。
真っ白な世界に大きな壁があった。
無性にその壁を壊したくなって、壁に近づいていった。
壁には大きく「夢」と書かれていた。
気にせず壁を殴り付けた。びくともしない。
今度は壁を蹴り付けた。壁の唸る音が聞こえた。
いける。
何度も何度も何度も何度も蹴り付けた。
そのうちヒビが入り、悲鳴がし、遂にはガラガラと音を立てて壁は崩れた。
よし!とガッツポーズをしたのもつかの間、壁の向こうから真っ黒い液体の波が押し寄せてきた。
ビックリしている間にコールタールのようにねっとりとした液体に飲み込まれた。
波に押しやられ、壁の穴をあけたところからだいぶ離された。
頭から液体を被ってしまい、真っ白い服は真っ黒になった。
なんなんだ、まったく。
纏わり付く液体のねっとりとした感覚が妙にリアルで、気持ち悪い。
水分を含んだ服が重い。
せっかくだ、穴の向こうへ行ってみよう。
重い服にふらふらしながら穴にたどり着いた。
少しばかり狭い穴をくぐり抜けると、そこには夜の街が広がっていた。
夜の街の空の上。
そこに立っていた。
上には星が瞬き、下には眠らない都会の明かりが灯っている。
穴の方を見ると、ぽっかり開いた穴の上に、「現実」と書かれていた。
なんの冗談だ。
それ以前にこれは夢だ。
悪い夢。
覚めれば、おしまい。
覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ。
覚めない。なんで?
座り込む。
夢の中で眠れば覚めるはずだ。漫画で読んだことがある。
横になって目を閉じた。
暫くして目を開けたが、覚めてなかった。
朝になれば、覚めるよね。
夢の中の現実の空がだんだん白みはじめる。
あ、朝だ。
もうすぐ覚める、はず。
水平線に光の線が伸び、その真ん中から太陽がゆっくり昇り始めた。
朝だ。朝だよ。覚めろよ自分。
覚めない。
どうして?
わんわん泣いた。
目覚めない自分が怖い。夢が夢でなくなっている。
わんわん泣いて泣いて泣いた。
そんな夢を見た。
起き上がると、目の前の壁には相変わらず大きな「夢」の文字があって、憎たらしい。

2007-03-11

カラクリ

計11名もの男女を殺傷した通り魔が警察の徹底した調査と努力により、捕まった。
犯人はおっとりとした顔付きの垂れ目の女性であったが、捕まえた当初、「悪魔が私に命令をするの!」と喚きちらしていたそうだ。
精神鑑定や犯行当時の責任能力について様々な情報が飛び交い、メディアはこぞってこの事件を取り上げた。
11名の死傷者の中には中学生もおり、世論の流れは「死刑に値する有罪」であった。
しかし、最初の判決では「無罪」が確定。
たちどころにメディアが盛り上げ、裁判批判等で新聞各紙が仰々しく掲げるかと思いきや、まるで熱がすっかり冷めてしまったかのように、事件についての情報が消えた。
当初は様々などよめきが沸き起こったが、メディアが取り上げなくなったため、年月はあっと言う間に事件を風化した。
これはメディアに人心が右往左往と踊らされている事がよく分かる良い事例でもある。
かくして、事件より半世紀経ったある日、数枚の法廷画が発見される。
それは、その犯人の裁判の様子を描いたものだったが、犯人の部分は何故か赤いペンでぐちゃぐちゃになっていて、どのような姿かはっきりとしない。
その法廷画を描いた人物は、
「見たくなかった。描きたくなかった」
と告白。
彼の元妻によると、彼はその裁判から帰って来た夜、妻が大事にコレクションしていた人形達を半狂乱になりながら叩き壊したらしい。
それが原因で二人は別れたそうだが、元妻はその時の様子をこのように証言している。
「彼はまるで人形を悪魔を見るような目で見つめていたわ。すっかり怯えているようだった。小さい犬が大きな犬を見て吠えるような、そんな光景だったわ」
犯人は無罪放免となったが、何処で何をしているかは、定かではない。

2007-03-09

ある夜の話

真夜中に目を醒ました。
急にトイレに行きたくなったからだ。
ふらふらと薄暗い室内を移動して、トイレで用を足す。
それから眠い目を擦りながらベッドに戻ろうとすると、ベッドに人が寝ていた。
え?誰だ?!
ってか、俺のベッドに勝手に入りやがって!
吃驚したり、怒ったりしていると、ベッドに寝ていたそいつが顔をこちらに向けた。
俺だった。
なんだ、俺か。
手洗ったか?と聞かれ、うん洗ったよ、と答えた。
そしてまたベッドに戻った。

2007-03-08

黒い羊小屋

二次創作では「くろひつじ」名義で活動しています。

【詳細はこちら】

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