短編小説/ショートショート

朝寝坊

やれやれ、今日もか。
まぁ今の時季は寒いからなぁ。
いつまでも暖かい布団の中でぐっすり眠っていたくなるよなぁ。
うす暗い空に向かって、煙草の煙がゆらりと昇る。
少しばかり風が出てきた。まだまだ朝は寒い。
上着のチャックを上げて、マフラーを巻き直す。
どのくらい待てばいいだろうなぁ。
水平線が一望出来る、港の桟橋で、遠くに架かる大きな橋を眺める。
水平線の少し上には雲がどかんと陣取っている。
反対方向では、赤い月がビルの向こうにゆっくり沈んでいくところだった。
ふと見上げた空が白み始めた。
お。
大きな橋の方、橋の奥から、あいつが顔を出し始めた。
やっとお目覚めか。
この時季は寒いから、仕方ないよな。
三脚にセットした一眼レフを覗き込む。
まだ寝ぼけ眼のようだが、こんな瞬間が結構イカしてる。
「おはよーさん」
あいつに向かって、シャッターを切った。

2007-03-07

ぬりえ

「今日はみんなでぬりえをしますよー。みんなはどこの国が好きかなー?」
今日はクラスメイト全員で、国の名前とかを知ってもらいながら、ぬりえをする。そんな授業。
真っ白い大きな紙に、黒い線で描かれた世界地図。
6畳ほどの大きな世界地図を目の前に、子供達は歓声をあげていた。
みんなはまだ小学2年生で、もちろんどのあたりにどんな国があるかなんて知らない。そこで地図帳を使いながら、見つけた国に好きな色を塗らせる。
昨日遅くまで描きながら、へぇ、こんな国あるんだーと、教えるはずの私も子供みたいに地図帳にお世話になった。
みんなきゃあきゃあ大騒ぎしながら、クレヨンで色を塗っていく。
すごいな。真っ白な世界がどんどん賑やかになっていく。
最初、子供達は地図帳で分けるために塗ってあった色を選んだりしていたが、
「好きな色でいいんだよ」
というと、ただでさえカラフルになってきていた世界地図はだんだんと騒がしくなっていく。
アメリカ合衆国には、あの国旗のような星がいっぱい飛んで、アフリカ大陸にはライオンやゾウやキリンが遊んでいる。
中国は最初真っ赤に塗られていたが、誰かがその上から黄色いクレヨンで万里の長城みたいな線を引いていた。
オーストラリアにはカンガルー、南極大陸にはペンギンが。
ぬりえのはずが、いつのまにかおえかき大会。
でもみんなが笑顔で、楽しそうだ。
みんなが色んな国を楽しくしている中で、ひとりの男の子が黙々と日本に色を塗っていた。
「マサくんは日本がすきなの?」
「うん!」
日本も他の国に負けないくらい、鮮やかな国になっていて、びっくりした。
「マサくん。マサくんの中では日本はこんなにカラフルなの?」
「うん!
あのね、ちょっと前にね、おじいちゃんに昔の日本の写真を見せてもらったんだ。
そしたらね、すごいんだよ。
ピンク色の花が咲いたり、黄色の花が咲いたり、木の葉っぱが真っ赤になったりしてたんだ」
「…そっか。いいなぁ。先生も昔の日本の写真、みたいなぁ」
「じゃあ今度おじいちゃんに借りてくる!」
マサくんはにっこり笑うと、ピンク色のクレヨンで、今はもう見られなくなった『サクラ』の絵を描き始めた。
日本に四季がやってこなくなって、もうどのくらい経つのだろう。
灰色に煙る空が窓から見える。
マサくんが持ってくると言う昔の日本の写真が、とても楽しみだ。

2007-03-06

傲慢

実は、君は誰よりも傲慢である。
君より知識がない者がいると知っている時点。
君より絵の上手い人間がいると知っている時点。
君より駆け足の遅い人間がいると知っている時点。
君がそれらは食べる物と知っている時点。
君の育った環境が貧しいと知っている時点。
その時の君は傲慢である。
そして、それらの時に傲慢であると知っている時点で、傲慢なのである。

2007-03-05

ナマケモノ

奴らは大変なナマケモノ。
生き物が一番やらなきゃいけない仕事って何か知ってる?
それは地球を磨くこと。
それは地球を元気にすること。
頭の良い奴らは、自分達が楽に生きる方法ばかり考えて、仕事をしないんだ。
せっかくの知恵を、地球の為に使ってはくれないんだ。
お陰で地球は傷だらけ。
泣いてる事を知らないんだ。
ぼけてる事を知らないんだ。
なまけものの何処がナマケモノ?
奴らよりよっぽど働き者だよ。

2007-03-04

恋月

彼は生まれ変わる度に恋をする。もしかしたら恋をするために生まれるのかもしれない。
なんでもない友人、特別な感情のない友人に恋をして、少しずつ思いを膨らませていく。
毎日毎日少しずつ、思いが増えていく。
気持ちが溢れそうになると、彼はしっかり告白をする。
しかし彼は成功しようがしまいが、告白の後に思いが冷めていく。
毎日毎日少しずつ、思いが萎んでいく。
思いがすっかり無くなった頃、彼は死んでしまう。
そしてまた、恋をする為に生まれる。
夜の太陽は、昼間の太陽並に情熱的だ。

2007-03-02

「行った方がいいよ、健康診断」
周りは僕にやたらとそう煩く言う。
うるさいなぁ。
そう思いながら、僕はケーキに手を伸ばす。
たくさんの食の有り難さを噛み締める事の何がいけないんだい?
世の中間違ってるよ。
食べた物を吐き出してまで痩せる事の方が罰当たり。
そして今日も僕は大きくてチャーミングな身体を揺らしながら帰路に着く。
帰ったら、何を食べよう。
最近焼肉食べてないなぁ。よし、焼肉にしよう。
家に帰り着く前に、スーパーに寄った。
すると真っ暗なスーパーの入口に「棚卸しのためお休み」の貼紙。
うーん、しょうがない。
普段使わない商店街へと足を向けた。
精肉店を見つけて入ると、「もう今日の分終わっちゃったんだ」とお店の人。
う~ん、困ったな。
家に何かあったかな。
トボトボと帰宅して、真っ先に冷蔵庫に向かう。
4人以上家族サイズの冷蔵庫には、適度な野菜と飲み物ばかり。
くそぅ、肉がない。
仕方ないので着替えてからまた出掛けた。
家で食べれないなら食べに行けばいい。
外で食べれば片付けも気にしなくていいしね。
るんるん気分で行き着けの焼肉屋に行ったが、明かりが点いていない。
入り口には「店内清掃のため休みます」の貼紙。
なんてツイてない!
近くを歩き回ったが、焼肉屋らしいものは見当たらない。
肉。
肉が食べたい。
ぐるぐるきゅるきゅる、腹は空腹を訴えるだけ。
ふとさすったお腹の弛み具合を見る。
肉、此処にあるじゃん。
野菜は家に沢山あったなぁ。
なんだ、大丈夫じゃん。
僕はるんるん気分で家に向かった。

2007-03-01

横断歩道

渡りたくて、何度も、足を運ぶんだけど、ね。
消えてしまうんだ、何度も。
いつになったら渡れるかな。
同級生だったみんなは、いつの間にか大きくなって、もう中学生?高校生?
渡りたいんだ、横断歩道の向こう側に。
そして、小学校で勉強するの。
そして、大きくなったら幼稚園の先生になりたい。
だからみんなと一緒に渡るんだけど、私、気付いたら元の場所にいるの。
渡れないの。
気付いたら、みんな大きくなってる。
大きくなりたいのに。
渡りたいのに。
消えてしまうんだ、何度も。
渡りたくて、何度も、足を運ぶんだけど、ね。

2007-02-28

世界にはたくさんの窓があることに気付いた。
その窓達には鍵がかかっていたけれど、私のてのひらには何でも開ける鍵があった。
だから、いつでも窓を開けて、身を乗り出して覗く事ができる。
窓の外に出ることもできるし、また元の場所から別の窓の外へ行く事も出来る。
窓は色んな形をしていて、面白い。
ただ、窓の外に出るときに足をぶつけないかちょっと心配。
元の場所に戻れなかったら、嫌だな。
私は鍵を握りしめて、ただ窓を見つめてる。

2007-02-27

pollenphobia

鼻がむず痒い。
そろそろ花粉の飛ぶ季節。
この頃になるといつも思うんだ。
花粉症にならない奴らは大丈夫なのかな?って。
花粉ってさ植物の種みたいなもんだろ?
正確にはおしべなんだけどさ。
おしべである花粉とめしべがくっついたら、種になるわけだ。
種はいつか芽を出して双葉になって大きくなるわけだ。
考えてみろよ。
花粉を吸い込んでも平気って事は、体内にもしめしべがなんかの間違いで入ってて、くっついて種になって芽を出す確率が上がるって事だ。
花粉症の奴らはそんな恐怖から逃れてるわけだ。
くしゃみや鼻水や涙で洗い流してるわけだし。
俺はまだ鼻がむず痒いだけだけど、心配だ。
何せ人間の身体は余計な栄養ばかりだからな。
おしべである花粉とめしべがくっついた日には、あっというまに芽が出て大きくなって、身体を突き破るに違いない。
そう考えたら、背筋がゾクゾクしてきた。
うわぁ、花粉こえー。

2007-02-24

突いた先

可笑しな奴がいた。
指を指して笑った。
可笑しな奴がいた。
指先で突いてみた。
可笑しな奴がいた。
振り返りやがった。
可笑しな奴がいた。
それは自分だった。

2007-02-21

黒い羊小屋

二次創作では「くろひつじ」名義で活動しています。

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