短編小説/ショートショート

美術館

普通、美術館と言うと、そこそこに名の知れた画家の作品や、何かしらのコンクール受賞作を展示しているものだ。
しかし、私の勤めている美術館は、少し変わっている。
まず、作者の名前がなく、誰が作成したのかは分からない。
そして、展示されている物の形態がおかしい。
ついでに言うと、此処の作品はいつの間にか増えたり減ったりしていて、いったいいつ搬入されたのかも分からないのだ。
あ、私の仕事は単なる入り口の受付だから、知らなくてもしょうがないかな、と思っているんだけど、私以外の職員は館長ぐらいで、搬入とか展示をしてる様子を見た事ない。
ある日館長に「新作が増えているから、たまには見ておいで」と言われて、館内を見て回る事にした。
それにしても、芸術とはよく分からないなぁと思うものばかりが展示されている。
一番怖かったのは、沢山の屍体の山の上に、花が一輪咲いている様子を形にした物。
大きな四角いガラスケースの中に、今にも腐臭が漂ってきそうなリアルな人形が幾重にも重なっていて、その一番てっぺんにぽつんと綺麗な花。
屍体の人形が多すぎて、てっぺんがよく見えなかったので、何の花なのかは分からなかった。
作品タイトルは「平和」だって。
他にも、男女がお互いの首に首輪を付け、お互いの首輪から伸びた鎖を持ち、反対の手にナイフを持った彫像とか、携帯電話を人間サイズに大きくした物が歩いてる街の模型とか、もっと色々よく分からないものがいっぱいあった。
それにしても、いったいこれらはいつこの美術館に運ばれてくるのか。
まぁ、考えてもしょうがないので、私はぐるっと館内を一周してから、仕事に戻った。

2007-02-19

携帯ストラップ

私の携帯にはいくつかの携帯ストラップがくっついてる。
でも、一つだけ、ストラップの紐だけで先が何もないのがあるの。
大事なものだから落ちないようにしてるとか、そういうんじゃないの。
このストラップの紐の先には、本当はあの人がくっついてるの。
でも、人間は生きていくのに働かなきゃでしょ?
だから私の携帯にはぶら下がってないの。
ただそれだけのことよ。

2007-02-17

死神事情

人間の目には見えていないだろうが、死神というやつは実はあちこちにいる。
例えば、今貴方が立っているその電車の車両の天井に、死神は鎌を抱えて張り付いている。
知っているだろうか、死神たる奴らには実は色が与えられていることを。
よくホラー映画なんかに登場する死神は黒いマントを纏っているが、あれは死神の一種類でしかない。
黒いマントの死神は汚い魂を刈る奴。
何故黒いかって?
そりゃあ刈り取る魂が汚いからさ。黒い色は汚れが目立たないからね。
他にも動物の魂を刈る緑マントや、物の魂を刈る紫マントなんてのもいる。
そして、俺のように綺麗な魂を刈り取る死神のマントは白い。
しかしながら、黒いマントの死神=死神 とイメージが固まっているように、白いマントの死神は少ない上に、暇だ。
この世の中ってやつは汚い魂ばかりが蔓延っていて、黒いマントの奴らは大忙し。白いマントの奴らも人手が足りない時は黒いマントを借りて仕事をする。
まったくこの世って奴は、こまった世界だ。
ついこの間、あんまり暇だから、長期休暇でも取ってバカンスに行こうとしてたら、仕事が入った。
どんな奴かと思ったら、自分の信念を貫いて、他人を助けて死んじまった人間だった。
意外とこの世って奴も捨てたもんじゃないなぁと思って、バカンスは取りやめた。
またいつ仕事が入るか判らない。
でも、出来れば俺は、そんないい奴らがこの世にいるのなら、あんまり仕事したくないけどね。

2007-02-14

てのひらセカイ

てのひらにもセカイがあります。
指先にもセカイがあります。
空の果てにもセカイがあります。
夢の中にもセカイがあります。
唇の上にもセカイがあります。
土踏まずのくぼみにもセカイがあります。
さて、君は何処のセカイにいる?
セカイは境目があると思われているようだが、実はない。
その境目とは、結局その自分なりの愚かなモノサシでもって、線を引く道具ではないモノサシで引いた線の事を言う。
セカイはセカイである。
愚かな者よ、その手に握るモノサシなど捨てなさい。
境目など、破壊してしまいなさい。
セカイが狭いと感じているのは、君の脳だけで、実際のセカイはハカリしれなく広いのである。
そう、君は脳の中で、狭いと感じたセカイにいるだけに過ぎない。
破壊しなさい。
その愚かな脳で作り上げた境目など。
セカイはセカイである。

2007-02-13

ゆめくい

彼女はとても眠るのが好きらしい。
僕は何度か彼女の前に現れたけど、彼女が瞳を開いて笑っている様子は一度も見たことがないんだ。
真っ白な服を着て、真っ白なベットの上で彼女はいつも眠っている。
夢を食べる獏の僕は、いつも彼女の夢をご馳走になる。
彼女の夢はすごいんだ。
とっても血腥くて、恐怖と絶望がとっても素敵なハーモニーを奏でている。
そう、とても可愛らしい顔からは想像出来ないくらいの、真っ黒な味。
そうゆうのが好きな僕は、とても嬉しかった。
ある日、彼女の元へゆくと、彼女が瞳を開いていた。
彼女の目は真っ黒で、何もなかった。空っぽだった。
「あなたが、私の夢を食べてくれているのね。いつもありがとう」
彼女の身体をよく見たら、包帯だらけだった。
うっすらと血の色が滲んでいた。
「これからもご馳走になるよ」
僕はそう言って、瞳を閉じた彼女の夢を食べる。
これからも彼女の夢を食べ続けよう。
その日の夢は少しだけしょっぱくなってしまった。

2007-02-12

傾いた天秤

天秤は、全ての同等を示すのにとても分かりやすい道具だ。
ちょうど良いサイズの天秤があったので、私は平和と言う文字を右皿に、地球を左皿に置いてみた。
困った事に、地球の方が重すぎて、左の方へ天秤が傾いた。
思案した私は、戦争と言う文字を右皿に置いてみた。
ところが天秤は、今度はゆっくりと右の方へと傾いた。
この天秤を平行にするためにはどうしたらいいものか。
私は未だに考えているところである。

2007-02-07

ぼくは ながいながい いっぽんみちをひたすらはしっていた
なにかにおいかけられるように
なにかにあせらされるように
あるひ とつぜんめのまえに おおきなかべがあらわれた
じゃまなのでおしてみたが びくともしない
こわしてやろうと たいあたりしたが うごかない
けりとばしてみたが あしがいたくなるだけだった
こまった
はしらなきゃ すすまなきゃ
いっしょうけんめいうごかそうとしたがむりだった
しかたがないのでぼくはごはんをたべた
しかたがないのでよこになった
しかたがないのでねむった
ぐっすりねむってめざめると めのまえのかべがたっていた
てあしをにょきっとはやして つるつるのそくめんにめだまをひらいていた
かべはぼくをみおろしていた
ぼくはいった
「なんでぼくのじゃまをするんだ」
かべはなにもいわなかった なぜならかべにはくちがないから
「じゃましやがって」
かべをなんどもけりつけた
かべがのそりのそりとみちをあけたので ぼくはまたはしりだした
ごはんをたべたから たくさんはしれた
よくねむったから あしがかるかった
ぼくはまたすすんでいく
こんどまたかべにであったら あやまろうとおもった
入院中のベットの上で、僕はそんな本を読んでいた。
妹が見舞いに来たときに持ってきた本だ。
仕事に行く途中、階段から落ちて足の骨を折った。
普段の忙しさにかまけて、食事や睡眠を疎かにした罰に違いない。
仕方がないので、僕は本を抱きしめて眠ることにした。

2007-02-06

コトバ集め

僕は世界の音という物を知らない。
言葉がどんな音で聞こえるのか、音楽がどんなものか知らない。
しかし、僕にはその人の発する言葉が美しいものかそうでないか、判る。
人は皆、言葉を発する時、羽を吐き出す。
美しい言葉なら純白に輝き、そうでなければ薄暗く、黒ずんでいる。
普通の人には見えていないようだ。
僕はその羽を「言羽」と呼んだ。
言羽は人の口から何枚か吐き出され、地面に落ちる前に消え去る。
たまに消えないで落ちているものもあり、僕はそれを拾い、ガラス瓶に集める事を趣味にしていた。
多分普通の人から見たら、空っぽのガラス瓶に空気を入れているようにしか見えないだろう。
ある日僕は公園で、それそれは綺麗で普通のものよりも少し変わった形の羽を拾った。
あまりにも綺麗で、僕はガラス瓶に大事にしまった。
あの言羽は誰が零したモノだろう。
ガラス瓶の中の羽を見つめて、僕は想像する。
その数カ月後、僕はあの綺麗な言羽の吐き出した主に出会う。
その主は女性で、テレビの中で歌っていた。あの不思議な形の羽を零しながら。
それそれは美しく、のびのびとした表情で歌う女性だった。
僕は喜んだ。
あんなにも美しい羽を零す人を見つけられたから。
しかしながら、よくよく見ていると、そのブラウン管の向こうで吐き出されている羽に、僕が拾った羽の美しさは見受けられなかった。
美しい、けれど、ガラス瓶の中のモノとは比べたくもないくらい、薄汚れていた。
彼女の羽を汚したのは、何であろうか。
僕はガラス瓶を抱き締めながら、涙を零す。
いつか、彼女に会うことが叶うなら、この瓶を、この羽を、彼女に返そう。
それで少しでも、彼女の吐き出す言羽が輝きを取り戻すなら。

2007-02-05

コトリの飼い方

「ねぇ、一つ頼みたいことがあるの」
付き合っている彼女がそう言った。
「私、明日から海外に仕事に行くのだけど、私のいない間、私の代わりにコトリの世話をしてくれないかしら?」
「コトリ?君飼っていたっけ?」
「えぇ。いつも一緒にいるの。淋しがり屋だから。でも仕事だし、コトリに構ってあげられないから」
「え、いつも一緒?」
「えぇ。今、私の肩にいるの。ほら、私のいない間、彼の言うことを聞くのよ?」
肩に向かってそう彼女が言う。
「え、ちょっと待って」
「今、貴方の肩に乗ってるでしょ?よろしくね」
彼女はそう言って帰ってしまった。
困った。
僕には彼女のいうコトリが見えていない。
どう世話をしたらいいんだ。
彼女が仕事で海外に行ってしまった3ヵ月間、彼女に頼まれたコトリの事、もしコトリが死んでしまっていたら彼女が泣いてしまうんじゃないかという事、そんなことを考えながら過ごした。
たまに電話でコトリの事を聞かれたが、元気だよ、としか答えられなかった。
そして、彼女が仕事から帰ってきた。
僕は彼女を空港まで迎えに行った。
「おかえり」
「ただいま」
「あ、あのさ」
「なに?」
「コ、コトリの事なんだけど…」
「うん」
「僕には最初からコトリなんて見えてないんだ。だから、その…」
僕がそう言うと、彼女はクスクス笑った。
「見えてるのに、気付いてないだけよ」
「え?」
「私の名前は?」
「ナルミ」
「漢字、思い出して」
「鳴海。…あ」
「ね?鳥がいるでしょう?」
彼女が笑う。
あぁ、そういうことか。
僕も一緒になって笑った。

2007-02-04

おにさんこちら

少し悩んでいることがある。
それは我が家での出来事。
大きめの部屋に一人暮ししているのだが、どうやら住人が僕以外にもいるようなのだ。
部屋でくつろいでいると突然浴室からシャワーの音がしたり、トイレから出て電気を消して暫くするとまた電気が点いたり、キッチンに立っていると靴箱を開け閉めする音がして、玄関を見ると靴が散乱していたり。
自分の頭がおかしくなったのか、と疑ったが、実際問題異常は起き続けている。
そんなある日、リビングで食事をとっていたらベットの上ではしゃぐような声がしたのだ。
微かだか、確かに女の子の声がする。
今までの異常は物を通して起こる事がほとんどだったが、第三者の存在が明白であるような事は初めてだった。
気になってしょうがなく、ベットのある部屋を謎の第三者に気付かれぬよう、こっそり覗いた。
いた。
黒い髪の、白い飾りのないワンピースを着た、中学生くらいの少女。
やたら可笑しそうに、ベットの上で跳びはねている。
「だ、誰だ!お前!」
反射的に声が出た。
その声に、少女はぴたりと動きを止め、真っ黒い瞳をこちらに向けた。
光のない、少女の瞳が異様に恐ろしかった。
目が合ったまま、動けない。怖い。
無表情の少女の顔に、少しずつ変化が現れる。
目を細め、口端をつりあげ、少女が微笑む。そして、
「見つかっちゃった」
透き通るような声。嬉しさを含んだ音。
「次は私の番ね」
そう言った少女の姿が見えなくなる。
「何の事だよ!」
慌てて叫んだ。
しかし少女の姿はもう見えない。
何の事だか、さっぱり分からない。
食事の続きを取ろうとリビングに戻ると、僕は絶句した。
リビングのテーブルの上の食事を、先程の少女が食べている。
そして、その周りをぐるりと囲むように、7~8人の人間が立っていた。
僕は叫び声を上げた。
その声に、少女以外が反応してこちらを向いた。
「うるさいぞ」
「まったくだ」
「馬鹿なやつだな」
「状況解ってないんじゃない?」
「あぁ、そうか」
7~8人の人間はこそこそ相談すると、僕の方を向いた。
「隠れ鬼さ。今まではあんたの鬼。今はその子が鬼」
「みんな鬼になりたいのさ」
「だからみんな騒ぐんだ」
「それだけさ」
「そう、それだけさ」

2007-02-03

黒い羊小屋

二次創作では「くろひつじ」名義で活動しています。

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