短編小説/ショートショート

赤イ花

「とある森の中に、それはそれは綺麗な花畑があると言う。
そこは、突然森が終わっていて、辺り一面を所狭しと咲いているのだと言う。
香しい花の香りが充満し、そこに辿り着いた者は皆、俗世を忘れてしまうのだと。
しかし、そこが何処なのか、正確な位置は誰にも知られていない。
何故なら、皆そこを探しに行って、帰ってこないから。
噂によれば、その花の色は鮮やかなアカイ色をしていると言うこと」
そんな、伝手のない噂話を、僕は半分信じ、半分疑いながら、探しに行った。
よくそんな暇が、と思われるかもしれないが、実際問題、暇だったんだ。
死にたくなるくらい、ね。
噂話が始まった山の麓で、地元の人間に話を聞くと、やはり、その山で合っているらしい。
何人もその噂を何処からか聞いて、山へ行き、ある者は見つけられず戻って来て、ある者は戻って来なかったと。
麓の人間が戻らなかった者を山中探したこともあるが、花畑を探しに行った者は見つけられた事がないのだという。
僕は花畑を見つけても戻って来ます、と麓の人間に念を押し、山へ入った。
かなり奥へ行ったかと思った場所で、休憩を取ろうと腰を降ろした。
すると、ぼんやりと見つめていた先に、森が終わっているかのように、木が突然なくなっている場所が見えた。
慌ててそこへ駆け寄ると、むせ返る程の花の香りと、視界いっぱいに花畑が広がった。
あぁ、此処か。
あまりの光景に、僕はそこに寝転んだ。
空は青く澄み、木々の生えた方からは鳥の鳴き声。
なんて心地よいんだろう。
寝そべったまま、身体をうんと伸ばす。
何かが腕に当たった。
何だろうとそちらに視線を向けると、花の下から腕が伸びていた。
小さく悲鳴をあげ、起き上がる。
花の下から伸びていた腕は、すでにひからび、まるでミイラのような状態である。
顔や身体があるはずの方へ、腕から辿っていくと、そこにはすでに鮮やかな赤い花がたくさんの花びらを広げていた。
あぁ、そういうことか。
僕はそのまま、また寝そべった。
探しに行った者が、見つからないはずだ。
花畑に近づいて来る足音。
「お花が増えているわ」
嬉しそうな声。
プチン、プチン、と花の茎を切る音。
「うふふ」
嬉しそうな笑い声。
「さぁ、売りに行かなくちゃ」
軽やかな足音が、花畑から遠ざかっていく。

2007-01-06

水が流れていた。
上から下へ、ただ、ただ。
水が流れていた。
キラキラと、煌めきを放ちながら。
水が流れていた。
未来から過去へと、過ぎ去るように。
水には小さな四角がいくつもいくつも混ざっている。
一つ摘み上げた。
小さな少年。
火の灯る蝋燭、白いホールケーキ。
幸せそうな少年。
蝋燭の焔を吹き消す。
暗闇。
水が流れていた。
いくつもの四角を含んで、下へ下へと流れていく。
流れていく。
その先は、暗闇だけ。

2007-01-05

最近、人間を飼い始めた。
性別は雌。
身長は155cmとまぁ平均的。
体重は60kgと少し重い。
性格は他人の言葉に流されやすく、無口で大人しい。
しかし私の命令には絶対服従。
私が行きたい場所には必ずついてくるし、大人しく家にいろと言えば、従う。
料理をしろと言えば、私の好物を作るし、目の前で自慰行為をしろと言えば、恥ずかしがりながらも吐息荒く行為に至る。
トイレに行く時間すらも私が管理しているし、目の前で用を足させたこともある。
大人しいがとても従順で、たまに大胆で、可愛い奴だ。
しかし、たまに言うことを聞かない時がある。
買い置きしておいた菓子類を空腹になると勝手に食べてしまうのだ。
食事の時間も私が管理しているから、食べるなと何度も言うのに、つい手が伸びるらしい。
お気に入りの菓子は分からない場所に隠すのだが、どうにも見つけてしまう。
言うことを聞かなかった時は、痣が出来るまで殴り付ける。
分かりやすい躾だ。
トイレに立ち、用を済ませ、手を洗う。
ふと鏡に映った私の顔には、濃い紫色の痣があった。
痣に水をかける。
その冷たさがとても気持ち良かった。

2007-01-04

灰色のズボンを履いて、
灰色カーテンの部屋でくつろぐ。
俺は灰色という色が大好きだ。
カーテンや壁紙、掛けている眼鏡のフレームも全て、カッコイイ灰色ばかり。
渋くて、イイ男がふかす煙草の煙の色だからな。
灰色という色に包まれていると、俺はもっとカッコイイ男になれた気がするんだ。
灰色は白と黒の中間で、曖昧だと言われることが多い。
何言ってんだよ。このグレーゾーンがまたしびれるんじゃないか。
濃淡だけでカッコイイ組み合わせも出来るし、意外とどんな色にも合う万能色なんだ。
俺の人生には欠かせない。
灰色好きになったきっかけは、小さい頃、親父のふかす煙草の煙を見つめていたとき、灰色という色の存在に気付いたこと。
みんな煙草の煙を嫌がっていたけど、カッコ良くその煙を操る親父の姿にしびれたもんだ。
そして灰色はめちゃくちゃカッコイイ色だと気付いた俺はかなりの優越感を覚えたね。
その優越感は何物にも変え難い甘味だ。
灰色以外に素晴らしい色はない。
しかし、最近白にばっかこだわる男にこう言われたんだ。
「灰色なんて、汚らしい色じゃないか」とな。
俺は頭にキタね。
だから、ついその男を殴り飛ばしたんだ。
地面に転がったヤツのむかつく白いシャツが灰色になっていく様は見物だったぜ。
未だに嫌がらせはしている。
ヤツの部屋の壁紙に白に近い黄色のペンキをこっそり塗ってやったりな。
しかし、白い服の男を見かけると腹が立ってしょうがない。
まぁ薄い灰色の服だとすぐばれるから、黒に近い灰色の服を着て、カツラも着けて、夜になると白い服の男を懲らしめてやるのさ。
このグレーゾーンがまた快感なんだよね。
さて、今日も出かけるか。

2007-01-02

いつもの事ですから

はぁはぁ、なんだってアイツの家までの道は坂道ばかりなんだ。
アイツの家はものすごく遠い。
しかしこれも義務だ。
それに、あと少し。
まぁいつもの事だ。
道すがら、色々あったなぁ。
そう振り返りたくなるくらい、アイツの家までの距離はある。
これもいつもの事。
何せ、ちょうど一年はかかるんだ。
あ、そろそろ見えて来た。
蕎麦でも食べて腹ごしらえしたら、ラストスパート、かな?

2006-12-31

黒いシャツを着て、
黒い壁紙の部屋でくつろぐ。
私は黒という色が大好き。
休むために横たわるベッドのシーツも、陽を遮るカーテンも全て、艶やかな黒ばかり。
高貴で、全てを包み込んでくれる色だからね。
黒という色に包まれていると、自分はとても安らかな気持ちになれる。
基本的に黒という言葉は悪い場合に使われることが多い。
けれど、悪いのは黒という色ではないのだから、はっきり言って失礼な事よね。
高貴さ、高級感を表すのに黒という色は欠かせない。
黒を好きになったきっかけは、小さい頃、夜の暗闇を見つめていたとき、黒という色の存在に気付いたことね。
みんなは夜の闇に怯えていたけど、夜は外の世界を黒く塗りつぶしただけ、という事実に誰よりもいち早く気付いたの。
その優越感は何物にも変え難い甘味だったわ。
黒以外に素晴らしい色はない。
しかし、最近黒い服を着た女性が白い服を着た男性を殺していくという通り魔事件があり、犯人ではないかと噂されている。
迷惑だわ。
いくら黒が何者よりも強く美しく、全てを飲み込む色だとしても、黒という色に非は一つもないのに。
それなのに、何故なの!
このままでは、悪いもの=黒、の固定観念を払拭できないわ!
そうして私は黒が正しい世界を作るために、夜闇の街へ行くの。
いつまで待てば、犯人は現れるのだろうか。

2006-12-31

白いシャツを着て、
白い壁紙の部屋でくつろぐ。
僕は白という色が大好きだ。
手に触れる家具も食器も全て、曇りのない白ばかり。
清純で、柔らかくて、優しい色だからだ。
白という色に包まれていると、自分は全てにおいて正しい気がする。
基本的に白という言葉は良い場合に使われることが多い。
白無垢に白寿、勝ちを意味する白星。
優しさという言葉は白百合の花言葉だしね。
白を好きになったきっかけは、小さい頃、僕のクレヨンにだけ白のクレヨンがあった事だ。
この世には白という色が存在する、その事実に誰よりもいち早く気付いた。
その優越感は何物にも変え難い甘味であった。
白以外に素晴らしい色はない。
しかし、最近白に囲まれてばかりで、ちょっとでも黄ばんでいると気になってしょうがない。
白以外の色なんて要らない。
全てが純白に包まれたら素敵なのに。
それなのに、何故なんだ!
こちらの壁を白くすると、あちらの壁が黄色くなる。
なんてことだ。
そうして僕は純白の世界を作るために壁を磨く。
いつまで磨けば全ては純白になるのだろうか。

2006-12-30

---彼はただひたすらに真っ白な原稿を目の前に広げ、ひたとも言葉が浮かばない己の頭を抱えていた。そして---
「どうだい、調子は」
声を掛けられ、顔を上げると、にこやかに笑うクラスメイトがいた。
「…まぁまぁかな」
「そろそろお昼だ。学食に行こう」
「そうだな」
ペンを置き、席を立つ。
学食までの螺旋階段をのんびりと降りながら、壁にびっしりと収められた大小様々な書物を見上げる。
「やぁ相変わらず随分な量だ」
天の果てまで続く螺旋階段と壁と書物。
降り注ぐ知性の埃はきらきらと光る。
「まったく、小説家になんてしなきゃよかった」
「はは。大変そうだな」
「そっちのは?」
「一人は有能な大統領に、もう一人はその国を狙うテロリストの頭にしてやったんだ。時系列が一緒だからね。こうした方が話が運びやすくて楽しいよ」
「二人掛け持ちしてもそんな楽しみ方があるんだなぁ」
「まぁね。で、苦悩している小説家はどうするんだい?」
「入水自殺でもさせようかなと」
「定番だな」
「まぁね。そっちのが書きやすいし。ちょうどそいつと交際してる女の話を前の席の子が書いてるから、一緒に自殺させてやろうかと」
「ふーん?平気なの?」
「その子も息詰まってるらしいから、ちょうどいいんじゃない?」
「次は誰のを書くんだい?」
「小説家以外ならなんでもいいよ」
小説家の最期の台詞を考えながら、券売機のA定食のボタンを押した。

2006-12-29

世界なんてものは、広大であり、ちっぽけな箱に収められた、くだらない時間の砂である。
定義なんてものは、ふざけた価値観と、科学という人間の驕りに整合性をもたせた、狭苦しい箱に収めた濁った視界である。
神なんてものは、人間の臆病な欲のために作り上げられた、人間の形の箱に救いという夢を収めたものである。
人間なんてものは、その驕りと浅はかさを知らない、欲情を詰め込んだだけの箱である。
このやたらと高飛車に語られる説明すらも、ネットと呼ばれる狭くて広い箱の中に漂う一つの文章である。

2006-12-22

ある朝起きたら、視界が歪んで見えた。
真っ直ぐな筈の物には不規則な波、
人の顔のパーツは有り得ない配置、
なだらかな婉曲は弾けたようにギザギザ。
そういえば、こんな絵を描く画家がいたなぁと思い出す。
綺麗な長方形であった筈の鏡を覗くと、平凡な顔がおかしなことになっていた。
小さな目は大きく拡大され、左右の大きさもばらばら。
低い鼻はさらに低く、普通の大きさだった口は鼻よりも小さい。
耳もやたら大きいし、頭だって破裂しそうなほど大きい。
違和感あるけど、普通に生活が出来るあたりが不思議だ。
せっかく、こんな変な視界を手に入れたのだから、とあちこちを巡ってみた。
世界は面白い程に歪んでいた。
新しく出来たビルは真ん中からぽっきりと折れているし、
新品の新札は誰が汚したのかやたら汚いし、
街を歩く子供達の背後には常々真っ黒の手が後を付ける。
面白かったけど、流石に気が狂いそうで、毎日元に戻してくださいと祈りながら眠った。
一週間後の夜、目の無い神様が夢に出て来て、自分の眼をえぐり取って行った。
その夢から覚めた朝に、視界は元に戻った。
これでいいんだ。
神様の目が欲しいなんて、願うもんじゃないね。

2006-12-21

黒い羊小屋

二次創作では「くろひつじ」名義で活動しています。

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