フミキリ

シリーズもの異端見聞録

俺は再び溜め息を吐き出した。なんとも嫌なもので挟まれたものだ。
右には麻都、左には人間じゃない奴。
今日は厄日だ。
また溜め息を吐き出す。すると麻都がこちらに顔を向けた。
「溜め息ばっか吐いて、そんなに俺と帰るのが嫌なの?」
こちらを向いた麻都の顔に、女に気付いた表情は伺えない。やはり、か。
「…それもある」
「『も』?それって…」
麻都が何かを言ったが、上り電車がパーンと警笛を鳴らしながらガタガタと踏切を通過して行った為に、声は掻き消された。
代わりに、俺は人間じゃない奴の囁きに耳を奪われていた。
『…見ツケタ……ヤット。マタ逢エタ……マタ』
…また逢えた?
女幽霊の顔がこちらを向いているのが見える。
長い前髪で瞳は見えない。薄い唇が少し震える程度だったが、奴らの声はこちらの法則とかを完全無視して耳に頭に入ってくる。
…見たこともないんですけど。
奴らの相手なんかしていたくもない。てか例え過去に遭っていたとしても早急に記憶から消してるわ。
電車が通過してしまい、警報機も鳴りやんで遮断機が上がる。よし、こいつから離れられる。
麻都が一歩前を歩く。女が後ろに遠ざかり始める。
…よし、このまま自然に離れられれば………え?
顔を上げたしな、一歩前の麻都がすうっと何処かに吸い込まれていくように、消えた。踏切の反対側にいた車もすれ違う間際に空中に消えた。
…は?
一瞬、何が起きたのか判らない。
消えた。
え?なんで?
「麻都?」
名前を呼んだが、そこには俺しかいない。ちょっと待て。
カンカンカンカン……
警報機が再び鳴り始めた。慌てて向こう側に渡る。
なんなんだ?
振り返ると、反対側には小さい男の子が立っていた。襟足の長い、小学校低学年くらいの男の子。
どこかで見たことがあるような…。
そう思っていると、ガタガタと電車が上り方向に通過していく。
…やっぱおかしい。
通過した電車が見慣れない色だったし、踏切の周りの様子がさっきまで住宅が立ち並んでいたのに、今はだだっ広い更地と随分違う。
それに何より、めちゃくちゃ暑い。
「どうなってんだ?」
遮断機が上がり、反対側の少年が走りだす。少年はよく見ると半袖に半ズボン。
マフラーを外し、上着を脱いでいる間に、少年は俺の横を通り過ぎた。
一瞬近づいただけだが、あちこちに擦り傷だらけなのが見えた。
少年は俺から少し離れたところで立ち止まると、
「ツカサー!!どこだー!マキノツカサー!!」
大声で叫び始めた。
「はぁ?!」
思わず声を上げた。俺も少年も吃驚するくらいの音量だった。
いや、てかソレ俺の名前なんだけど。
その声で、少年が駆け寄ってきた。それにしても、こいつ、誰かに似てるなぁ。
「お兄さん、マキノツカサの知り合いですか?」
喋り方はめちゃ丁寧。ホントに小学生か?実は中学生?
「あ、うん、まぁ…」
「何処かで見かけませんでしたか?」
「い、いや」
「そうですか…」
物凄く落胆した表情。うーん。やっぱ知ってるなぁ?
「ところで、君は?」
「あ、僕は麻都広貴といいます。牧野司の幼馴染みです」
あぁ、納得。
昔は眼鏡かけてなかったもんな、麻都のヤツ。うんうん。
……って、いや、ちょっと待て。何がどうなってる?
「どうかしました?」
「あ、いや、なんでも…」
なんでもないわけねーだろっ!
悶々とした考えの中で出てきたのは、踏切を渡る直前に、麻都が話していたあの話。
『逢う魔が時の踏切はフミキリになる』
『別次元に行ける』
なんだ、コレ。
じゃー何か?俺は昔の次元に来ちゃったわけか?
ってそんなのあんの?いや、現にこうしているわけだし…あるってことか。うんうん。
いや、納得してる場合じゃない。
あり得ない現実にうなだれている俺を、少年麻都が不思議そうに見ていた。
「大丈夫ですか?」
「あ、あはは。だ、大丈夫大丈夫」
大丈夫じゃないけどなっ!
「あー、で、牧野くんがどうかしたの?」
「いなくなっちゃったんです」
「何処かに出掛けたとかじゃないの?」
昔はよく神社の裏山に行ってたしなぁ。
「いえ、突然いなくなっちゃったんです」
「は?」
「さっきまで教室にいたのに、教室から突然消えちゃったんです」
「はぁ?」
なに少年牧野(俺)もよくわかんない事になってんだよっ?!

2007-02-08

黒い羊小屋

二次創作では「くろひつじ」名義で活動しています。

【詳細はこちら】

WEB拍手

感想などは以下のWEB拍手からお願いします。

【WEB拍手ボタン】

→拍手の返信はこちら