りんご箱

短編小説読みきり

「ごちそうさまぁ」
 夕飯が済むと、私は二階の自室にこもってしまう。
 私の家は、二階建ての一軒家。白い壁に灰茶の屋根が、ちょっとシックな家。
 家族は、専業主婦のお母さんに、会社では部長クラスのお父さん。そして、四歳年上の不良兄貴が一人。昔、お兄ちゃんの事でちょっとごたごたしてたけど、やっとお兄ちゃんの就職が決まって、最近はかなり平和。
 私の部屋は、二階の廊下の突き当たり。部屋の中は、ベットとコンポとテレビと机と本棚。そしてクローゼットがある。
 机の上には、大きめの置き鏡があって、私はよく、それを覗き込んで、セミロングの髪で遊んでる。少し、長さが足りないけど、それなりにいろいろ出来るから、結構好き。最近はちょっとシャギーを入れて、結ばないようにしてるけど。
 ベットに寝っ転がって、単行本をパラパラと見たけど、見飽きたシーンばかりで、つまらない。そこで私は、ゲームをすることにした。結構難しい、パズルゲーム。私って、どっちかって言うと、パズル系が得意なんだよね。
 ハード機にソフトをセットして、いざ、スタート。途中までは調子いいんだけど、後半になると、すっごく難しくって、ムカついてくる。一回だけ、まぐれでオールクリアをしたことあるけど、二回目はまだ。
 私は、そのまま十二時頃までゲームをした。
 私、難しいことほど燃えるんだよね。

***

 次の日の一限目は、国語だった。国語の熊ヶ谷先生っていう男の先生は、怒ると怖いもんだから、皆シーンって静まり返って、先生の、説明的文章の要点、という話に聞き入っていた。
 勿論、私は例外。
 髪で耳を隠し、ウォークマンを聴いていた。周りの人達は私が問題児なのを知っているし、たいていの子は進学校に行きたがっているから、私なんかに関わりたくないって顔して、勉強に集中していた。私は国語の教科書の間に、文庫小説を挟んで、それに集中していた。
 熊ヶ谷先生は、すぐに気が付いたけれど、ベテランの、でっぷり太った先生は、知らん顔して授業をしていた。でも、授業のキリがいいところで、語りだした。
「ついこの間、実家の方からりんごが一箱送られてきましてね。知り合いの人にお裾分けしたり、家族で食べたりしてたんですが、なかなか減りませんでね。一週間ほどすると傷んだりんごが腐りだしたんです。腐ったりんごってそのままにしてると、周りのりんごにも影響を及ぼして、腐らせるんですよね」
と、そこまで言ったかと思うと、熊ヶ谷先生はお腹のお肉を揺らしながら、私の所まできて、怒鳴り散らした。
「このクラスの腐ったりんごはお前だ!結原!」
 私がのんびりと顔を上げると、熊ヶ谷先生は元から人相の悪い顔を真っ赤にして、細い目を大きく見開いて、言葉を続けた。
「なんだその授業態度は!それでも受験生か?!お前のような生徒がいるから、このクラスは他のクラスよりも締まりがなっとらんだ!お前一人のせいでみんなに迷惑をかけているのが分からんのか!!」
 よく息が続くな、と思うくらい、べらべらと舌を動かす熊ヶ谷先生。
 …これだよ。
 私は心底うんざりした。
 私みたいな奴らは、いくら説教しても、きかないってことが分からないらしい。ワンパターン過ぎて、欠伸が出る。
 いくら学歴社会だからって、あーだこーだ言われたら、「行こうかな~」とか思ってる気持ちも、ぶっ壊れちゃうよ、ホント。
 それに、いくら頭良くたって、実技能力なきゃ意味ないじゃん。
 勉強も、大事って言うのも分かるけどさ、勉強するしないは、こっちの勝手でしょうに。
 長ったらしい熊ヶ谷先生のお説教よりも、ウォークマンから流れる大好きなバンドの曲よりも、私は、自分の心の声に、支配されていた。
 と、その時、一限目終了のチャイムが鳴り響いた。熊ヶ谷先生はさらに機嫌を悪くしたらしく、私の机の脚をがつんっと蹴り飛ばし、
「この事は、担任の熊ヶ谷先生にも報告しておくからなっ!」
と、捨て台詞。ウォークマンの停止ボタンを押した後だったから、その声だけは良く聞こえた。
「熊ヶ谷先生に聞いたぞ。お前は本当に何を考えているんだ」
 放課後のお説教が、毎日のように続くと、二十代最後の年を迎えている、若い体育の森山先生も、一日に何十歳も年を取るみたいに、うんざりしている。勿論、私も。
「数学の時も『出て行け』と言われて、素直に出て行ったそうじゃないか。俺たちはな、好きでそんなことを言ってるんじゃないんだぞ?お前のことを思ってだな…」

2006-12-17

黒い羊小屋

二次創作では「くろひつじ」名義で活動しています。

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