りんご箱

短編小説読みきり

『オ前ノコトヲ思ッテ』
 吐き気がする、イヤな科白!
 ダイッキライ!
 私は、「まさしく堪忍袋の尾が切れた」状態。
「いいか…」
「ホントに、私のことを思ってるんですか?」
 先生が何か言いかけたけど、この際、気にしない。
「先生は、みんなのこと、一人一人きちんと考えてるつもりなんだろうけどさ、出来てないよ、全然」
 私、押し付けられんのも、無視されんのも、大キライだもん。
「ど…どうしてそう思うんだ?結原は」
「私が勉強しない理由を、考えようとしないで、よく、同じことが言えますよね」
「勉強しない『理由』?」
「勉強に『理由』があるように、私のすることにも、『理由』があるってことですよ」
 私の強い口調と、下から睨みつけるような目つきに、森山先生は退いていた。
「じゃあ、その『理由』はなんだ?」
 たじたじになってる先生を、この時は笑えなかった。私は、そのくらい怒っていたから。
「忘れたんですか?中一の時のこと。ほとんどのテストで満点とって以来、クラスのみんなにイジメられたのを。三年間担任やってて、知らなかったんですか?」
 私たちの学校は、クラス替えはあるけれど、担任も繰り上がってくるから、三年間同じ先生ってこともある。私もその中の一人。
「…そう…だったな。二年になってからのテストは、ほとんど点がなかったっけな。…あれから、だったな」
 森山先生は、急にしんみりした顔つきになった。反省をきちんとするあたり、やっぱ大人だなって思う。
 空気の温度が、上昇の一途を辿ってたのが、窓をいきなり開けたみたいに下がった。
「…だが、俺はな、お前の頭なら、将来、凄い奴になれると思うんだ。高校だって、かなりレベルの高いところを狙えるだろう。…だから、内申書に書きたくないいんだよ、ホントのこと」
「…先生でも、嘘つくんですね」
「そりゃな。それに、行って欲しいんだよ。そうすりゃ、お前をイジメた奴らに、見返してやれるだろう?」
「それ…先生の本音ですか?」
「一応、そうなるな」
 変な言い回し。
 …嘘だよ。
 そう思った。
 でも、半分くらいなら、信じても良さそうに思えた。
「…もう、帰ってもいいですか?」
 こんなとこ、居たくなかったから、しんみりした空気ってキライだから、私はそう言った。
「…今日は…もういい」
『イジメ』のことで、先生はめり込んじゃったらしい。先生らしくない言い方で、そう返事をくれた。

「失礼しましたぁ」
 私はそんなの全然気づいてなさそうに装って、お説教部屋になってる、一階の資料室を出た。
 今日はいつもより早い。
 夕陽の傾き具合で、よく分かる。
 未琴とは、今日は帰らない。
 未琴は彼氏の朝樹と帰ると言っていたのだ。
 羨ましい。
 彼氏の出来た女友達なんて、こんなもんだ。
 いちいち教室に戻らなくてもすむように、げた箱の近くに鞄は置いておいた。私は、珍しく誰一人として通らない、廊下の上にいた。げた箱までの廊下には、吹奏楽部であろう、何かの楽器の音が、寂しげに、細く響く。
 不意に、先生のしんみりとした顔が浮かんだ。
 廊下が、長い長い、一本の道に見えた。
 家に帰って、いつものようにテレビを見ていた。すると、お母さんがりんご箱の所で、何かし始めた。
「何してんの?」
「えー?傷んでるりんご出してるのよ。明日、生ゴミの日でしょう?」
 お母さんはりんご箱から、二、三個、ほとんど腐れてしまったりんごを取り出して、生ゴミ入れに捨ててしまった。
『腐ったりんごは捨てる』
 うん。一番イイ方法だ。
 そうすれば、周りに迷惑かけないもんね。
 私はうむ、と頷く。
 それから、不意に熊ヶ谷先生の言っていたことを思い出し、自分に置き換えてみた。
 …あれ?じゃあそれって、自殺するってこと?
 それってヤダなぁ。
 イジメられてる時、絶対自殺しないって耐えたのに、進路のことで自殺したら変だもんね。
 じゃ、取り除かれちゃえばいいんだ。
 う~ん。でも、そんなコトしてくれる人なんていないよなぁ。
 私はソファの上で伸びをした。テレビではくだらない言葉と映像が、相変わらず流れている。
 …りんご箱…か。
 私は、キッチンへ行ってしまったお母さんに代わり、りんご箱の中を覗き込んだ。甘酸っぱい蜜の匂いを、残っている数個のりんご達は、箱いっぱいに充満させていた。
 りんご箱。
 世の中みたいだ。

***

 期末テスト期間になった。
 勿論、勉強もしなかったし、テストは白紙って決めてるから、暇で暇で、死にそうだった。そこで私は、いつもの公園へお散歩に出掛け、そこの小さなブランコに座って、缶コーヒーを飲んでいた。ホットな飲み物に、ありがたさを感じる気温だけに、ここには人っ子一人、いやしない。

2006-12-17

黒い羊小屋

二次創作では「くろひつじ」名義で活動しています。

【詳細はこちら】

WEB拍手

感想などは以下のWEB拍手からお願いします。

【WEB拍手ボタン】

→拍手の返信はこちら