薬屋

ショートショート短編小説

僕は、平凡な町の平凡な商店街の片隅で、薬屋をやっている。
僕の店には毎日、そんなに多くはないけれどお客さんが足を運んでくれる。
市販の薬も売れたけど、薬剤師の僕が作った薬もそれなりに評判で、僕の作った薬の方がいいと言ってくれる人もいる。ありがたいことだ。
ある、暇な日の昼下がり、ピィーンポォーンと店のドアのチャイムがなった。お客さんだ。顔を上げると女子高生が立っていた。
棚に視線をぐるっと巡らせてから、僕を視た。
「何か、捜し物?」
「……」
彼女は僕をじっと視た。僕も彼女をまじまじと視た。よく視ると、彼女は傷だらけ。制服も何だか汚れているし、それに何より、胸元のリボンがズタズタになっていた。
「ひどい怪我だね。こっちにおいで、手当てをしよう」
転んだ、わけではなさそうだ。転んだくらいで背中に切り傷など出来ない。
何となく、察しがつく。
今の彼女にとって、この世はきっと地獄なのだろう。そんな気がする。
手当てが済んだものの、沈黙がしばらく続いた。
それを破ったのは、彼女の声。
「お兄さん、薬剤師さんですよね?薬、作ってもらえませんか」
「薬、ですか?」
「楽に死ねる、薬を作ってください」
あまりに必死な彼女の様子に、承諾してしまった僕は自分の調合メモのノートを捲った。
市販のよりも効く鼠退治のクスリとか、飲みやすい胃薬とか、思い付いた調合を普段からメモするのが癖だった。
そして、かつて僕は一度だけ安楽死の為の薬を、考えたことがあった。誰かが引っ越しの為に飼っていた犬を処分しなきゃだという話をしていた時だ。
安楽死の薬があったら…。
安易な考えでノートにペンを走らせた。書き終わってから、僕はなんて物を考え付いたのだろうと自分が恐ろしかった。
けれど。
今それが役に立とうとしている。僕はただその喜びにうち震えて、薬を作りはじめた。
ただ、その喜びを満たすために、夢中になった。
一時間後、僕は彼女の前に立った。そして、彼女に一つの薬包みを渡した。白いさらさらの粉が入った、紙の包みだ。
「どうしようもなくなったら、使うんだよ?」
彼女は深々と頭を下げて、それから薬を大事そうに握り締めて、帰っていった。
翌朝、僕は新聞を必死になって捲った。
彼女はあの薬を飲んだのか、飲んだとしてどうなったか、僕は知りたかった。
次の日も、そのまた次の日も、記事を探した。いつしかそれは僕の日課になった。
記事は今だに見つけられない。けれどそれでいい。
それでいい。

2006-12-04

黒い羊小屋

二次創作では「くろひつじ」名義で活動しています。

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