短編小説/ショートショート

山田くん

会社の後輩である山田くんは、ちょっと変わっている。

なぜなら、いつも違うのだ。

服装だけじゃない。
髪型も髪の色も違う。
瞳や肌の色、身長から体格に至るまで、全てが違う。

変わらないのは、性別と性格、そして『山田』という名前だけ。

僕は隣のデスクなので、毎日カメレオンも脱帽する変わりようの彼を観察しているのだが、見ている限りは同じ人とは思えない。

しかし、彼は彼なのだ。

昨日話した内容は覚えているし、卒業した学校に恋愛遍歴、住所や電話番号は同じ。
山田くんであることを証明する諸々に変化はない。
山田くんの外側だけが変わる。

しかも、それについて誰も指摘しない。
僕にだけ違って見えているのかと思ったが、そうではないらしいし、本当に不思議だ。

「鈴木さん、昨日言ってたお店、今夜連れてってくださいよ」

昨日は細っそりしていたのに、今日はまたお相撲さんのように巨大化した山田くんにそう言われた。
彼の言うお店とは、美味しいちゃんこをたらふく食べさせてくれるお店のことだ。
昨日の山田くんがあまりにもガリガリに細かったから、つい言ってしまったのだけど、今日の山田くんと行ったら、お店のメニューを食べ尽くしてしまいそうだ。

「……ごめん、今夜は予定があるから、また今度行こう」

山田くんが程よい体格くらいの日に、連れて行こうと思う。

初出:https://note.com/mei331/n/n28b1355c46fa

2021-01-26

視線

もし、人の絵が描かれた看板から視線を感じたら、目を合わせないようにするんだよ。

視線を合わせたら最後。
その場から動けなくなるからね。

石化したり、金縛りになるわけじゃない。

入れ替わってしまうんだ。

気付いたら、ずぅっと同じ景色を見ている。
動かせるのは視線のみ。
後ろを振り向くことはおろか、頭上を見上げることすらままならない。

ちなみに、入れ替わった後の人間の方がどうなるのかは、ちょっと分からない。
まだ視線を合わせてくれる誰かに会ったことがないからね。

ただ、入れ替わった後の僕が、看板になった僕に向かって、ニヤリと笑って立ち去ったことだけは覚えてるよ。

初出:https://note.com/mei331/n/n85459e156a2f

2021-01-25

ランドセルの中身

「おはようございまーす!」

自宅マンションを出たところで、後ろから声を掛けられた。
振り返れば、近所の小学生がこちらに向かって走ってきていた。

「あ、おはよー」

答える私を、彼は追い越しながら「いってきまーす!」と叫んでいた。

寝坊でもしたのか慌てて家を出たのだろう、彼に背負われているランドセルのフタが開いていた。
高学年男子の背中には少し小さく思えるランドセルの蓋は、ガチャガチャと音を立てて左右に大きく揺れている。

あのままでは、ランドセルの中身が飛び出してしまいそうだ。
全力疾走中の彼には悪いが、伝えたほうがいいかもしれないと思い、「ねぇ!」と口に手を添えて大声をあげようとした、その時だった。

「……え?」

べろんとフタが捲れた、その一瞬だけだったが、ランドセルの内側が見えたのだ。
しかし、教科書やノートに交じって、目を疑うものが見えた。

人間の、顔だ。

青白い肌に、真っ黒な目。
ボサボサの長い黒髪まで見えたし、あれは紛れもなく人間の顔。
しかも、その虚のような黒い目と目が合ったような気さえする。

あまりに突然で、声が出なかった。

きっと、本か何かの表紙に違いない。
あんな人の顔が表紙の本なんて見たことはないが、きっとそうだ。
そうに違いない。

私は学校へ急ぐ彼の背中を見送りながら被りを振り、仕事へ向かうことにした。
しかし、彼のランドセルの中身が気になってしまい、その日はなんだか集中できないまま終わってしまった。

どうしても気になって、次の日の朝、彼に出会したタイミングで聞いてみた。

「あ、あのさ。昨日、君のランドセルの中身が見えてさ……」

そう切り出すと、彼はちょっと困ったように眉を八の字にして

「あー、おばさんが見ちゃったんですか? それで学校着いた時には居なかったのかー」
「え?」
「あいつ、見た人のカバンに入っちゃうんですよ」

彼の言葉に驚いて、私は思わず自分の通勤バッグを開いた。
しかし、そんなものは見当たらない。

バッグの中身は、書類の束と、財布と、社員証と、化粧ポーチと、、、
しかし、書類を何枚かかき分けたところで、手が止まった。

いた。

青白い肌。
真っ黒な目。
ボサボサの髪の、顔。

平べったい、顔だけの、なにか。

「だから、おばさんも誰かに見せてね! それじゃ、いってきまーす!」

彼はそう言うと、逃げるように走りさってしまった。

これが何なのか、全く見当がつかない。
しかし、誰かに見せなければいけないようだ。

私はバッグのファスナーを閉め、どこでバッグを開けたままにしようか考えた。

初出:https://note.com/mei331/n/n42e3619deb17

2021-01-24

白と黒

白い世界に、ポツンと1つ黒を落とす。
黒はゆっくりと広がり、薄まりながらもしっかりと世界を濁していく。

黒はどうしようもなく強いのだ。

では、黒に白を落としてはどうか。
残念ながら、黒はあっという間に白を飲み込んでしまう。
黒はそれこそ光すらも飲み込んでしまうのだ。
これはいけないと、
何度も何度も落としてみるが、黒が白になることはない。
頑張ってみたけれど、黒がすこぅし薄まる程度だった。

「ままならないなぁ…」

僕はそう呟いて、カップの縁ギリギリまでになったカフェオレを、そっと口に運んだ。

初出:https://note.com/mei331/n/nd54732f33247

2021-01-24

おい、起きろ

冬の朝は、目覚めても布団の中から出たくない。
今日もいつものようにもぞもぞぐずぐすしていると、枕を向けた壁側の、窓がガラリと開く音がした。

驚いて窓の方を見上げると、窓の向こうから男が顔を出して、こちらを覗いている。
待ってくれ、ここは三階で、窓の向こうは足の踏み場などないはずだ。

ぽかんとしていると、男は僕に向かって、
「おい、起きろ!朝だぞ!」
そう叫んだ。

うわっと声を上げたところで目が覚める。
なんだ、夢か、変な夢だったな。
そう思って窓の方を見上げると、窓が開いていた。

そして思い出す。
僕を覗き込んでいたあの男の顔は、僕だった。

初出:https://note.com/mei331/n/n41a4952ad9a6

2021-01-24

今日も誰かの誕生日だった

〈……おはようございます。本日の天気は、晴れ。最高気温は18度、最低気温は13度です〉

朝、目覚めると、だいぶ古くはなったが、未だ現役で動き続けるスマートスピーカーが、丁寧な口調で喋り出す。
その声を聞きながら僕はベッドの上で伸びをして、脳みそがゆっくりと起動するのを感じた。

〈……本日は、ーーー様のお誕生日です〉

ああ、そういえば、そんなヤツもいたな。
小学校の時に仲の良かった友人で、中学あたりまでは一緒につるんでいたっけ。

優秀なスマートスピーカーは、僕のアカウントに紐付けされたクラウド上のアドレス帳や、SNS、スケジュールカレンダーから情報を引っ張ってきて、今日の予定や誕生日を迎える友人の名前を告げてくれるのだ。
もう交流はない人でも、勿体ない性格も災いして、なんとなく消さないでいたためか、毎日のようにこうして誕生日の誰かを思い出させてくれる。

せっかくだ。
今日は仕事帰りに、アイツの墓を参ってこよう。
頭に浮かんだ彼が、数年前にひき逃げに遭って死んでしまっていたことも思い出したからだ。

〈……おはようございます。本日の天気は、晴れ。最高気温は19度、最低気温は13度です〉

〈……本日は、ーーー様のお誕生日です〉

ああ、確か彼女は、随分前に勤めていた会社の後輩だ。
彼女のお墓の場所は知らないが、ニュースで報道されるとほどに大規模な、マンション火災で亡くなったのだった。
跡地は公園になっていて、一画に慰霊碑があったけ。

せっかくだ。
今日は仕事帰りに花でも買って参ってこよう。

〈……おはようございます。本日の天気は、晴れ。最高気温は17度、最低気温は12度です〉

〈……本日は、ーーー様のお誕生日です〉

僕は毎日、スマートスピーカーが教えてくれる誕生日だった誰かのお墓や、亡くなった場所を訪れる。

時々、随分と遠い場所や、人里離れた場所もあるけれど、半ば日課のようになっていた。

未だに行方不明者扱いだったり、埋葬されていない人もいる。
それでも毎日、僕は誕生日だった彼らが最期を迎えた場所に逢いに行く。

〈……おはようございます。本日の天気は、曇り。最高気温は18度、最低気温は14度です〉

〈……本日は、ーーー様のお誕生日です〉

ああ確かコイツは、高校生の時に僕をいじめていたヤツだったっけ。
でもまぁ、今は昔の話だ。

何年前だったか、コイツは鋭利な刃物で身体中をメッタ刺しにされて、ある山の中腹辺りに埋まっている。
随分と深くに埋められたから、遺体は未だ発見されておらず、行方不明者扱いのままだ。
あの山は斜面が結構急になっているから、登山靴で行かないとだな。

僕はそんなことを考えながら、仕事へと出かけた。

初出:https://note.com/mei331/n/n2a0ec6cbd664

2021-01-24

めんどうな人の話

僕が小さい頃、テレビ画面の中でその人は顔をしかめて言った。

「救急隊員がコンビニに寄るなんて、もってのほかよ!」

僕には言ってる意味が分からなかった。
救急車に乗って働いているのは人間なのに、仕事中は水すら飲んではいけないらしい。

でもこの考えの人が当時はとっても多くって、当たり前になってきた。
そしてそのうち、そう言った人間に何かを施す立場は全てロボットがやるようになった。
救急隊員はもちろん、消防も、郵便も。宅配便や飲食店のウエイトレスだって、今はロボットが当たり前だ。

そんなある日、僕は自宅でうっかりケガをしてしまい、大量に出血してしまった。
血が止まらないので救急車を呼んだ。
するとオペレーターはこういった。

「救急隊員はロボットと人間、どちらを向かわせますか?」

この緊急事態にどっちだっていいだろう!
するとすぐに救急車がやってきて、病院に搬送された。

そこまで酷くはなかったらしく、治療してもらってすぐ帰れることになった。
待合室で会計を待っていると、すぐ近くの救急搬送口が騒がしい。

「なんでロボットの救急隊員なんて寄越したんだ!ふざけるな!」

今しがた運ばれてきたおばあさんが、なにやら暴れている。
よくよく見ると、小さい頃、僕が見たテレビの中で不思議なことを言っていた人にソックリだ。

「仕方ないだろ。今は人間の救急隊員は少ないんだから」

その人の息子と思われる人が懸命に宥めている。
息子さんの言う通り、あらゆるクレーマーのおかげで、休む間もなく人間にサービスを提供する人間は今殆どおらず、ロボットが主流の時代なのだ。
息子さんの言葉を聞いたその人は、見覚えのあるしかめっ面で、

「血の通ってない、愛情のかけらもないロボットが救急隊員なんて、もってのほかよ!」

めんどうな人だなぁ、と僕は病院を後にした。

初出:https://note.com/mei331/n/n0f0855dba29b

2021-01-24

愛妻弁当

「ごめんなさい、今日はお弁当作れなくて」
 今朝、妻にそんな風に言われたのを、お昼の時間になって思い出した。
 最初はコンビニへ行ったのだが、コレというものがなく、会社近くのスーパーへ足を向ける。
 そこのお弁当コーナーを覗くと『愛妻弁当』という名前のついた弁当を見つけた。
 木目をプリントしたポリスチレン容器で、なかみの見えない作りになっている。値段はワンコインの500円と、この店ではお買い得だ。
 どうせ名前だけ、と思ったものの、何が入っているのか気になったので、試しに買ってみた。
 会社のデスクに戻り、フタを取る。
 彩りや栄養バランスの考えられたおかずに、真っ白なごはん。食べてみると、普通にうまい。
 コンビニ弁当とも、一流シェフが拵えたものとも違う、家庭レベルでのおいしさだ。
 見た目は悪くないし、普通のお弁当と違ってより手作り感が感じられる。これはこれで悪くない買い物だ。
 辺りを見渡すと、同じような容器の弁当を食べている社員が何人かいる。
 愛を買う時代なのかな、と思いながら、500円の弁当を平らげた。

 帰宅して、妻に弁当の話をしようと考えていると、
「わたし、パート先を変えようと思うの」
 そんな話を聞かされた。
 今の職場に不満が多いことは聞いていたし、近所の仲が良い奥さんも行っている職場だそうなので、特に反対はない。
 その旨を告げると、妻は嬉しそうだった。

 またお弁当のない日、あのスーパーへ弁当を買いに行くとやはり『愛妻弁当』が売っていた。
 会社でフタを取ると、やはり普通にうまそうな内容だ。
「あ、先輩の弁当には卵焼き入ってるんですね、良いなぁ」
 同じように『愛妻弁当』を買っていた後輩にそう言われた。後輩のものと比べると、なかみがだいぶ違う。
 後輩に羨ましがられた卵焼きを口にいれると、よく知った味がする。
 妻の作る卵焼きの味だ。

 そういえば、妻の新しいパート先の仕事内容を聞いていない。

2018-03-11

あの頃のトモダチと話す方法

イマジナリーフレンズ。
子供の時にだけ逢える、自分にしか見えない、自分だけのお友達。

たいていの子は、そんな存在を忘れていることが多い。
当たり前だ。
だって、周りに自分の世界しか存在しない頃だから。

そんな彼らと、再び話をする方法があるらしい。
といっても、チャットアプリで会話をするという形で、だそうだ。

方法はカンタン。
深夜零時、大きな道路の歩道橋に上がります。その時、なるべく道路の真ん中になる位置で止まってください。
次に、持ってきていたスマートフォンを取り出し、チャットアプリを起動します。続いて、チャットアプリにある、近くの人と連絡先を交換するための通信機能を起動。
周囲に誰もいないことを確認したら、そのままの状態で、スマートフォンを持った手を上にあげ、左右に振ってください。
画面は真上を向いているのが理想的です。

すると、誰かが連絡先に追加されています。
アイコンはデフォルトの状態であることがほとんどだそうですが、名前はあなたが昔、呼びかけていた名前になっているはず。

それが、あなたの中から生まれ、忘れてしまった、あなただけのお友達。

話しかけてもいいですし、話しかけられることもあるそう。
昔の話をしたら、意外と盛り上がるかもしれません。

ここで注意したいのが、逢いたいと言ってはいけないこと。

連絡がとれたということは、すぐそばにいるということなので、逢うことはできると思います。
ただ、逢いたいと言った人が、軒並み居なくなってしまったという噂もあるんです。なので、そこだけは注意してくださいね。

2018-01-23

月灯

 「月が綺麗だねぇ」
振り返ると、男が立っていた。
よれよれのシャツに、緩めたネクタイ、頭はぼさぼさ。見るからにくたびれた、私より少し上くらいの、サラリーマン。
男の薄い唇からふぅっと吐き出された煙が、白くふわりと舞って消えた。
「…月?」
持っていた煙草を口に銜えて、上を指差す。つられて顔をあげると、真ん丸の月が光っていた。
灰色の模様がくっきり見えるほどに鮮明な、白い月。
「屋上にでも上がらなきゃ、しっかり見えないからねぇ」
両手の親指と人差し指で作った四角に、月を捕らえて、彼はにやりと笑った。
「…君は月を見に来た、わけじゃなさそうだね。邪魔しちゃったかな」
ビルの屋上の、フェンスの向こう側にいる私に、彼は無表情で言った。
「……」
ふぅっと白い煙が揺らめいて消えた。
「…まぁ、好きにしたら?別に止めない。他人の人生の選択に、他人が口出すもんじゃないし」
うーん、と背伸びをして煙を吐いた後、彼は「あ」となにか思い出したように口を開けた。
「ひとつ、教えてやるよ。
 満月の夜は、気分が高ぶったり、悪い事考えたり、しやすいんだと。
 だから、事故とか事件とか、多いんだってさ」
煙がまた空中に舞った。

そして、彼はくるりと後ろを向き、出入り口の方へ歩き出した。それから、ポケットから紙切れを取り出し、ビリビリに破いて、
「じゃ、俺は、帰るわ」
そう言って、ドアの向こうに消えた。
月が綺麗だ。
夜の空が、うすら青く感じるほどに、強烈な光。
足元を見る。
車のバックライト、店の灯り、沢山の光が渦を巻いている。
不意に、空の灯りが陰る。雲が出てきた。
「…行くか」
私はそう呟いた。

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物書き向け満月企画参加作品

2011-02-18

黒い羊小屋

二次創作では「くろひつじ」名義で活動しています。

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