短編小説/ショートショート

宛先

面倒臭がりな私は、自分のメールアドレスを電話帳に登録している。

友達に教えたりする時、管理者情報とか、携帯をいちいち弄るのが面倒だから。
登録者名は「じぶん」にしてある。

ある日、「じぶん」からメールが来た。

内容は
「死にそう」
と一言だけ。

気味が悪くてすぐ消した。

数日後、酷い風邪をひいて寝込んだ。

友達から
「大丈夫?」
とメールが来た。

私は熱で朦朧としながら返信した。

すると数時間後にその友人が
「返信が来ないから心配で来ちゃったよ」
と見舞いに来た。

誰かに間違えて返信したのかな、と携帯の送信履歴を見たら「じぶん」宛てに返信していた。

内容は
「死にそう」
と一言だけ。

2007-01-29

墓石

自分で自分の墓を建てる行為は早死の原因だ、と有名な占い師がいっていた。
なるほど、と思った。
墓は死体が埋まってこそ完成だ。
だからだろう。
都会の喧騒に救急車のサイレンは欠かせない。

2007-01-28

ポスター

駅の改札の側の壁に、ポスターが貼ってある。
ダイエット食品のポスターだ。
ポスターの隅が少しだけ破れていて、悪戯心でめくってやった。
向こう側に、不健康そうな顔で笑う女の子がいた。
申し訳ない気持ちで、めくったところを元に戻した。

2007-01-27

明滅する世界

部屋の蛍光灯がチカチカと点滅し始めていた。
少し前からやばそうだな、と思っていたが、この繰り返される明滅はだいぶ気になる。
昔、部屋の蛍光灯が切れかけて点滅を始めたら、家の外も点滅をしている、そんな話を読んだことを思い出した。
新しい蛍光灯を買いに行こうと外に出た。
外でも部屋と同じ明滅が繰り返されていた。
これはマズイ。あの話と一緒ではないか。
慌てて買いに行き、慌てて付け替えた。
部屋の明滅が止み、世界の明滅も止む。
ほっと安堵の息をつく。
そういえばあの話はどんなオチであったか。
そんな話を、インターネットの片隅で見つけた。
あぁそういえば、と天井を見上げると、

2007-01-26

賢者

人間とはなんとも賢い生き物だ、とふと思うときがある。
例えば、へとへとになって遅い時間に仕事から帰って来た時に、テーブルの上にぽつんとカップ麺が置いてあり、家の中に人の気配が微塵も感じられない、こんな状況の時などだ。
お湯を入れて3分も待てば飢えをしのげる。
素晴らしい。
そして、飢えを凌ぎながら、専業主婦の妻がこんな時間に家にいないという事実と、最近の風当たりの悪さから、不倫相手の所だろうと簡単に推測出来てしまうということに、賢さと引き換えに心が狭義になっている事実をただただ実感するばかりである。

2007-01-25

地球儀

月に一度、僕の地元では骨董市をやっている。
駅の近くにイベント広場って場所があって、そこに市が立つ。
古着物に古い置物、掛け軸に食器。確かに骨董品だと思う古い物からそうでないものまで、若干フリーマーケットも混ざったような、そんな市だ。
僕はその市によく足を運んだ。何か面白い物に出会えそうな気がして。
古びた空気が広がった世界の一角で、僕は足をとめる。硝子細工の置物が目についた。
干支の動物を象ったものから、一角獣に麒麟など、透明な動物たちが紫色の布の上で遊んでいた。
それらの中心で、地球儀が静かにたっていた。透明な球体に、不透明の精巧な世界地図がのっている。
値段も手頃だったので、僕の家のインテリアの一つとして迎えた。
透明な地球儀は、陽のよく当たる出窓に、花の活けられる花瓶と並んだ。
太陽の光が地球儀を通り抜けて床に落ちている様はとても綺麗だった。
次の日、地球儀の足元に水が零れていた。
ごくごく僅かだったが、確かに落ちていた。
隣の花瓶の花を活け変える時にでも跳ねたのだろうか。いやしかし、それなら地球儀そのものも濡れているはずだが、そんな様子はない。
だが、と、あまり気にせずに水を拭き取った。
しかし、水は毎日のように地球儀の足元を濡らしていた。
地球儀自体に水がかかる様子はないが、と地球儀をよくよくみていた。そして、おや、と違和感を覚え、世界地図を広げた。
精巧に精密に描かれていたはずの硝子の球体の上の世界地図は、持っていた紙の上の世界地図と少し変わっていた。
北のてっぺんと南のてっぺんの形が僅かに変わり、太平洋や大西洋の島々の数が僅かだが減っていた。
これはいけない。
僕は慌てて地球儀を陽の当たりにくい僕の机に移動した。
これできっと大丈夫。
しかし、次の日、地球儀の足元には水が落ちていた。
何か良い方法はないものだろうか。
僕は毎日首をひねりながら、地球儀の足元を拭いている。

2007-01-24

スキマの

時間って奴は、消費すればいいだけのものだ。
そのうち無くなって、自分がこの世から消えれば、それでいい。
スナック菓子の袋を新たに開けながら、欠伸をした。
もう何時だ。
パソコンの画面には大量の文字。
くだらないモノから役立ちそうなモノまで情報が散乱している。
適当に摘み上げて、時間を消費するための道具として再利用する。
この画面の世界は、まるで自分の部屋と同じだ。
居心地がいい。
スナック菓子を食べながら、文字を摘み上げていた。
その時だった。
「おい」
何処からともなく声がした。
部屋を見渡す。
当たり前に人間はいない。
この部屋に自分以外の人間が入らなくなって、どのぐらい経つか。
この部屋に自分以外の声が響くのは久々だった。
まぁしかし、気のせいにしてまたパソコン画面を見つめた。
「おい、お前」
また聞こえた。
今度ははっきりと、すぐ近くで。
「おい」
また。まただ。
周りを見渡す。
自分の横、右側、目線より少し下辺りから聞こえた気がした。
右側は棚だ。漫画とか雑誌とかスナック菓子の袋とか、積んである。
嫌な汗が滲んできた。
とりあえず、少し目線を下げてみた。
…みなきゃよかった。
壁と棚の微妙なスキマ。
そこに目があった。
ぎょろっとした、目が二つ並んでいた。
かたまっていたら、目が合った。
「おい、お前」
ギロリとした目がそう喋った。
正確には、その方向から声が聞こえた。
だってそいつには口がない。
しかし聞こえたのだ。
「おい、お前」
「な、なんだよ」
思わず聞き返した。
やばい、動揺してる。
「片付けろ」
「…は?」
「部屋が汚すぎるんだよ」
「は…はぁ」
「分かってるなら片付けろ」
目は怒ったように細められている。口調にも怒りが混じっていた。
何がなんだか分からないまま、そいつの言う通りに片付けを始めた。
もうどのぐらいからやっていなかっただろう。ゴミと雑誌と洋服とCDとDVDとゲームと…。何がなんだか分からない物がごちゃごちゃ散乱している。
よく分からない恐怖にかられながら、必死で片付けた。無我夢中。
途方もない時間を使ったが、部屋はそこそこ片付いた。すると
「やれば出来るじゃないか」
なんだか嬉しそうな声色だった。
なんだかしらないが、照れてしまった。
ふと気付くと、そいつはいつの間にかいなくなっていた。
これからは小まめに掃除しよう。
やれば出来るんだし。
自分の中の時間消費の方法が一つ増えた。

2007-01-21

待ち合わせの喫茶店で

それはちょっとした待ち合わせの時の話。
小粋なジャズの流れる喫茶店。
待ち合わせに指定されたその店には初めて訪れた。
相手は少々遅れるらしい。
人気のない店内に歩み勧める。
ガランとした空間にジャズだけが響く。
テーブルはそこそこあるが、食器の下げられていないテーブルが目立った。
店員が少ないのかなぁとぼんやり考えながら、空いているテーブルにつく。
アイスコーヒーを頼み、待っている間に周りを見渡す。
それぞれのテーブルの側の壁には、絵が飾られていた。
どれも違う絵のようだ。
自分がついたテーブルの側には、19世紀くらいのベースボールの様子が描かれていた。
観戦する人も男は燕尾服、女は派手なドレス。
よくよく見ていると、ピッチャーが腕を軽く動かしている。
え、と思った途端、バスンッとキャッチャーがピッチャーの投げた球を受けた音が聞こえた。
気付けば、いつの間にか、紳士淑女に混じってベースボールの観客席にいる。
先ほどまで聞こえていたジャズは何処かへ消え去り、頼んでいたアイスコーヒーを片手にしっかり握っていた。
ベースボールはやたらと盛り上がっている。
どうやら、ツーアウト、ツーストライク、スリーボール。
次の一球で交代かいなか。
観戦席では、紳士淑女がいまかいまかと大騒ぎ。
一人の紳士が、瓶ビールをあおっているのを見て、どうせなら、ビールを頼んでおけば良かったなぁとアイスコーヒーに口をつける。
おや、コレ黒ビールじゃないか。
これはいい退屈しのぎ。
紳士淑女に交じってベースボールを楽しんだ。
しばらくして、
「おーい」
と何処からか声が聞こえた。
聞き覚えのある声。待ち合わせの相手の声だ。
気付くと、静かに小粋なジャズの流れるあの喫茶店にいた。
しっかりと椅子に座って、テーブルにはアイスコーヒー、目の前には待ち合わせていた相手。
「悪いな、待たせて」
「え、あぁ、いや」
退屈すぎて白昼夢でも見たか、と壁に掛けられた絵を見つめる。
「どうした?」
「いや、なんでもないよ」
「続きが気になるなら、一緒に見るかい?」
「え、何を?」
「ベースボールさ」
「え?」
「やけに楽しんでいたじゃないか、絵の中で」
そういって、目の前のそいつは瓶ビールを二本頼んだ。
目の前に置かれたそれは、絵の中の紳士が飲んでいたものとおなじ瓶ビールだった。
「ベースボールにはビールだよな」
そう言って渡された。
そして気付いたら、先ほどと同じ観客席。
隣には待ち合わせた相手が座っていた。
どうやら、試合はまだ終わっていないようだ。
「あぁ、ベースボールにはビールがいいな」
瓶と瓶を軽く打ち合わせ、マウンドに目を向けながら、ビールをあおった。

2007-01-20

白い風が吹き消したのは

ガチガチと音が聞こえる。
自分の歯が鳴らす音だと気付くのに時間がかかった。
雪崩に巻き込まれてどのくらい経ったのか。
毎年行っているスキー場だし、甘く見ていた。
まさか雪崩に遭うなんて。
雪崩に巻き込まれた人間は天地が分からなくなり、パニックになって雪の中で動き回り、閉じ込められて死ぬらしい。
俺はその辺の知識はしっかり持っている。
だから大丈夫。
高を括っていたんだ。
それは単なる驕りだと、白い世界で思い知る。
よだれの落ちた方向で、天地を知ることは出来たが、残念ながら、頭は地を向いていた。
大分下の方へ押し込められたらしく、雪は固くて身動きすらまともに取れない。
こんな状況で、なんでまだ冷静な思考を持っている。
まぁ当たり前だよな。
あぁ、死ぬ瞬間はこんなにも穏やかなんだな。
誰だ、死神は黒い衣装を身に纏っているなんて言ったのは。
俺を迎えにきた死神は、真っ白な衣装を着ているぞ?
静かな世界だ。
この静けさは、俺を冷たくしていく。
白い世界に、溶け込んでいく。

2007-01-19

ビルとビルのすき間のビル

「やれやれ、困ったものだね」
そろそろ定年という壁が見えて来た男は、軽く溜息を吐く。
実はその業界では成功をおさめた会社の人事部長だ。
今日は戦力増強の為の面接日。
しかし、困った事に面接を予定している人間が来ないのだ。
遅れるとの連絡は受けているのだが、その後一行に来ない。
「もういい。彼の携帯に連絡して、伝えろ。不採用だ、と」
しびれを切らした部長はそう部下に言う。
もう次の面接者が来る時間だ。
とりあえず、お茶を飲み、気を落ち着ける。
面接者が来るはずの時間。
入って来たのは、部下からの「面接者が遅れるそうです」という連絡。
部長はまた溜息を吐く。
朝からこれで5人目。
遅れるという連絡の後、実際に来た者はいない。
「まぁ仕方ない。辿り着いた人間を採用する仕組みだしな」
ちなみに、その会社の名前は「株式会社忍者派遣サービス」という。

2007-01-18

黒い羊小屋

二次創作では「くろひつじ」名義で活動しています。

【詳細はこちら】

WEB拍手

感想などは以下のWEB拍手からお願いします。

【WEB拍手ボタン】

→拍手の返信はこちら