短編小説/ショートショート

いつもより静かな朝に

「ねぇママ、アレは?」
忙しい朝。朝食、お弁当作りに勤しむ私に、寝床から起きて来た娘がそう問うた。
「アレはどうしたの?」
「アレ?」
「そう、アレ」
私が指差した先を見て、娘が頷く。
いつもアレに無関心でいた娘。今朝はとても静かだから、さすがに気になったようだ。
毎日昼夜問わず、騒がしい、アレ。
私が「アレ」としか言わなくなった為だろうか、娘もアレと呼ぶようになった。
「もう捨てちゃうから、アレとは今日でさようならよ」
「そっかー」
娘はやはりさほど興味を持たず、幼稚園へと行く支度を始める。そろそろご飯を食べて、家を出ないと、幼稚園バスが迎えに来る。
手のかからない娘は、しっかり身支度を終え、朝食をとる。
その間にお弁当を作り終え、娘の鞄に入れる。
娘は玄関に向かう前に、アレの方を見て手を振る。
「じゃあね、パパ」
リビングで血を流して倒れているアレ。
後は捨てるだけ。
今日は燃えるゴミの日だからね。

2007-01-17

大きな世界の隅っこの羽化

かのように広大な世界において、それが与える影響は指先程にも満たないであろうが、限りなく零とも言えないので、容認せざる事実として受け止めなければいけないものの一つだ。
だからと言ってその小さな事象一つ一つを摘み上げて、あーだこーだと論じるのも、姦しい。
いくつほどその事象があるかというと、大小を織り交ぜて数え上げたらそれこそ気が遠くなるだろう。
羽化の一つ一つが必ずしも人間に判る音を起こすのだとすれば、それはそれは限りなくも激しい破裂音となって、世界中を駆け巡り、人間の脳に死んでしまうほどの刺激を与えるだろう。
羽化の音がそれこそ無音に響くために、破壊的破裂音は生成されず、人間は生きているのだ。
だからと言って羽化を排他的に見逃すのは解せん事実であり、それがマイナスの事象となりうる場合もあるからである。
類似しているが、事象を認める認めないというこれまた小さな事象は、プラスとマイナスという観点から大きく異なっていると言えよう。
羽化とは則ち全ての小さな始まりでるということを覚えておいて頂ければよろしいかもしれませんね。
猫が欠伸をするのも小さな羽化でございますように、つまり大変つまらない事象だという認識の波紋を広げる小さな始まりでございます。
するなれば、まぁそろそろいい加減にこのグダグタな文章遊びにも飽き始めたしだい。
言わずもがな、お気づきの方も、何が何やら分からない方も、全ての始まりへ、さらりとお戻りいただけますよう、ここは明確にしめますよ、ごきげんよ「お」。

2007-01-15

欠けた月が浮かぶ空の下

冷たい空気。白い吐息。震える星と欠けた月。
「毎日飽きないかい?そんな空の上は」
『飽きないよ。
見る度に地上は様変わりしているし、
毎日違う星が話し掛ける。
刺激的な毎日さ』
「そうか。
僕は常々、空に浮かんだ君は一人ぼっちで、
僕と同じつまらない日々を送っているものだと思っていたんだが」
『ふふ。
それはそうだろうね。
君達から見たら、僕が浮かぶ空には他の誰もいないように見えるかもしれない。
最初は僕もそうだった。
自分の光で、周りに気付かないでいたんだ。
気付いてからは楽しい日々さ。
君も多分、自分で見えなくしているだけさ。
しっかり周りを見てごらん。目を凝らして、よーく見るんだ』
周りをぐるりと見渡した。
こんなことして、何に気付けるのか。
「誰もいないよ」
『そうじゃない。そうじゃないよ』
「どうしたらいいのさ。
親しい顔を思い浮かべたところで、誰もいないよ」
『君は大きな勘違いをしている。
例えば、僕と君との距離は計り知れない距離だろう。だが君は僕という存在に気付き会話している。
例えば、僕と星達の距離は計り知れない距離だろう。だが僕は星達の存在に気付き会話している。
そういうことさ』
「さっぱり分からない」
『そうだろう。
気付かない君はそうだろう。
だが気付いた時、君の言うつまらない日々は僕の言う刺激的な日々になっているだろうよ』
月が遠くなっていく。
しかし彼の放つ光はいつまでも暗い空を照らす。
地平線が白むまで僕は欠けた月の言葉に頭を捻ることになる。
答えに気付いた時、月はすっかり地平線の向こうへ行ってしまった。
また今夜、彼が現れたら話してみることにしよう。

2007-01-14

私が手放したもの

その日は薄曇りの空だった。
けだるい朝、外に出るのも億劫。
しかし、行かなければ、社会的な信頼を失うだろう。
その日必要な書類を持っているのは私だけなのだから。
原付きで片道30分。
いつもの道だ。
通いなれた、なだらかな下り坂。
緩やかなカーブに合わせてハンドルをきっていた。
つもりだった。
タイヤは道に沿って大きなカーブを描くガードレールを目指していた。
近付いてくるガードレールの凹みまで、数えられるくらい、緩やかに時間が流れた。
気付いた瞬間にハンドルをきっていれば、避けられる距離だった。
しかし、私はハンドルから手を放した。
真っ白な世界に置き去られた、そんな感覚。
その瞬間、私の上にのしかかる物全てから、開放されそうだったから。
自殺する人は、こんな安らぎを求めているのかもしれない。
苦痛の音が響く世界は常に進む。
そんな世界に置き去られるのが、不安で、不安で。
実際に取り残されると、あまりにも平穏で、それは逃れるのも歯痒い、甘美。
ベッドの上で目覚めると、世界が始まっていて、あの安らかな世界が恋しくて、さめざめと泣いた。
死にたかったわけではない。
生きてることが嬉しかったわけではない。
ただただ、恋しかったのだ。
刹那に垣間見た、安らぎの世界が。
手放したのは、どっちだ。
手放されたのは、どっちだ。

2007-01-13

僕は自分で自分を殺しました。

ある朝目が覚めたら、僕は透明な箱の中に居た。
正確に言うと、誰からも僕が分からない状態だったんだ。
誰も気付かない。
誰も僕が居る事に気付かない。
話しかけても、誰も気付かないんだ。
まるで、周りから僕の存在を見えなくする、箱に入ってるみたいな。
透明人間にでもなった気分。
でも、僕は自分の手が見えるし、鏡に自分の顔も映った。
だから透明人間になったわけじゃない。
あぁ、そうか、僕は自分で自分を殺したんだ。
20XX年1月15日に僕は確かに、大量の睡眠薬を飲んで眠った。
あぁ、僕は未練を残してこの世に止まる、幽霊ってやつか。
はは、それはいい。
未練ならいくらもある。
高校時代、僕をネクラだなんだと詰っていたアイツ。
大学時代、僕に散々たかって、金を要求したアイツ。
仕事場でも、クズだのノロマだの罵っていたアイツ。
せっかくだ、殺してしまおう。
きっと、僕が今こうして、幽霊と言う透明な箱に入っているのは、神様が僕に復讐を許しているからに違いない。
せっかく殺しに行くのだから、死神のような真っ黒な衣装で参上してやろう。
自室の箪笥から、黒いズボンに黒いシャツを引っぱりだし、ついでに黒いカーテンを引きちぎってマントにした。
力に自信がないので、金属バットを持つ事にした。
念のため、反対の手に包丁も握った。
よし、コレなら勝てる。
カーテンのマントを翻し、アイツの家に向かう。
あぁ、きっと、アイツは驚愕の表情を浮かべるだろうなぁ。くくくっ。
愉しみだ。。。
---数分後
全身黒尽くめの金属バットを持った男が、路上で職務質問されていた。

2007-01-12

冷たい夜空の下で

星が瞬いていた。
まるで、私達に話し掛けているようじゃない?
そう言った私に、
星が煌めくのは、上空の風が強いからさ。
と、つまらなそうに貴方は答えた。
吐く息は白い、寒い夜。
よく晴れた、月の無い夜。
冬の夜空は綺麗だから、とベランダに引っ張り出したけれど、貴方はすぐさま暖かい部屋に引き返した。
そんな様子を背中で見ながら、私は星空に手を伸ばす。
あぁ、掴めそうなのに。
例え掴めたとしても、すでに燃え尽きて、無くなっている物なのに、ね。
あまりにも綺麗に輝くから…。
星に手が届かないのは、そんな現実を見せないための、優しさなのだろうか。
貴方が部屋を出ていく音を背中で聞く。
燃え尽きた星でもいい。
失われた愛情でもいい。
この手に握り締めていたい。
星空に手を伸ばす。
手に入れてはいけないのでしょうか。
星空に手を伸ばす私を、貴方が、滑稽だ、と笑った気がした。

2007-01-11

ある晴れた日

私は、穏やかな陽射しと澄み渡る青空の下を、ただ、歩いていた。
なだらかに伸びる、一本道。
暖かい空気。
爽やかな風。
どこまでも続く、一本道。
私が進む先に、乳母車を押しながら歩く、女性。
向こうからやってきた穏やかな笑みの老婆が、乳母車の方に手を振っていた。
乳母車の女性は立ち止まり、老婆と言葉を交わす。
女性と老婆を追い越すしな、乳母車の中に何となく視線を向ける。
中は空っぽだった。
私の進む先に、片方の腕肘を横に突き出して歩く女性がいた。
立ち止まり、指を空に指し、見えない誰かに話し掛けていた。
私は、歩いていた。
最愛の人と手を繋いで。
なだらかな道を、ただ。
繋いだ手に温もりは感じない。
それでも、シアワセだから。

2007-01-07

赤イ花

「とある森の中に、それはそれは綺麗な花畑があると言う。
そこは、突然森が終わっていて、辺り一面を所狭しと咲いているのだと言う。
香しい花の香りが充満し、そこに辿り着いた者は皆、俗世を忘れてしまうのだと。
しかし、そこが何処なのか、正確な位置は誰にも知られていない。
何故なら、皆そこを探しに行って、帰ってこないから。
噂によれば、その花の色は鮮やかなアカイ色をしていると言うこと」
そんな、伝手のない噂話を、僕は半分信じ、半分疑いながら、探しに行った。
よくそんな暇が、と思われるかもしれないが、実際問題、暇だったんだ。
死にたくなるくらい、ね。
噂話が始まった山の麓で、地元の人間に話を聞くと、やはり、その山で合っているらしい。
何人もその噂を何処からか聞いて、山へ行き、ある者は見つけられず戻って来て、ある者は戻って来なかったと。
麓の人間が戻らなかった者を山中探したこともあるが、花畑を探しに行った者は見つけられた事がないのだという。
僕は花畑を見つけても戻って来ます、と麓の人間に念を押し、山へ入った。
かなり奥へ行ったかと思った場所で、休憩を取ろうと腰を降ろした。
すると、ぼんやりと見つめていた先に、森が終わっているかのように、木が突然なくなっている場所が見えた。
慌ててそこへ駆け寄ると、むせ返る程の花の香りと、視界いっぱいに花畑が広がった。
あぁ、此処か。
あまりの光景に、僕はそこに寝転んだ。
空は青く澄み、木々の生えた方からは鳥の鳴き声。
なんて心地よいんだろう。
寝そべったまま、身体をうんと伸ばす。
何かが腕に当たった。
何だろうとそちらに視線を向けると、花の下から腕が伸びていた。
小さく悲鳴をあげ、起き上がる。
花の下から伸びていた腕は、すでにひからび、まるでミイラのような状態である。
顔や身体があるはずの方へ、腕から辿っていくと、そこにはすでに鮮やかな赤い花がたくさんの花びらを広げていた。
あぁ、そういうことか。
僕はそのまま、また寝そべった。
探しに行った者が、見つからないはずだ。
花畑に近づいて来る足音。
「お花が増えているわ」
嬉しそうな声。
プチン、プチン、と花の茎を切る音。
「うふふ」
嬉しそうな笑い声。
「さぁ、売りに行かなくちゃ」
軽やかな足音が、花畑から遠ざかっていく。

2007-01-06

水が流れていた。
上から下へ、ただ、ただ。
水が流れていた。
キラキラと、煌めきを放ちながら。
水が流れていた。
未来から過去へと、過ぎ去るように。
水には小さな四角がいくつもいくつも混ざっている。
一つ摘み上げた。
小さな少年。
火の灯る蝋燭、白いホールケーキ。
幸せそうな少年。
蝋燭の焔を吹き消す。
暗闇。
水が流れていた。
いくつもの四角を含んで、下へ下へと流れていく。
流れていく。
その先は、暗闇だけ。

2007-01-05

最近、人間を飼い始めた。
性別は雌。
身長は155cmとまぁ平均的。
体重は60kgと少し重い。
性格は他人の言葉に流されやすく、無口で大人しい。
しかし私の命令には絶対服従。
私が行きたい場所には必ずついてくるし、大人しく家にいろと言えば、従う。
料理をしろと言えば、私の好物を作るし、目の前で自慰行為をしろと言えば、恥ずかしがりながらも吐息荒く行為に至る。
トイレに行く時間すらも私が管理しているし、目の前で用を足させたこともある。
大人しいがとても従順で、たまに大胆で、可愛い奴だ。
しかし、たまに言うことを聞かない時がある。
買い置きしておいた菓子類を空腹になると勝手に食べてしまうのだ。
食事の時間も私が管理しているから、食べるなと何度も言うのに、つい手が伸びるらしい。
お気に入りの菓子は分からない場所に隠すのだが、どうにも見つけてしまう。
言うことを聞かなかった時は、痣が出来るまで殴り付ける。
分かりやすい躾だ。
トイレに立ち、用を済ませ、手を洗う。
ふと鏡に映った私の顔には、濃い紫色の痣があった。
痣に水をかける。
その冷たさがとても気持ち良かった。

2007-01-04

黒い羊小屋

二次創作では「くろひつじ」名義で活動しています。

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