短編小説/ショートショート

灰色のズボンを履いて、
灰色カーテンの部屋でくつろぐ。
俺は灰色という色が大好きだ。
カーテンや壁紙、掛けている眼鏡のフレームも全て、カッコイイ灰色ばかり。
渋くて、イイ男がふかす煙草の煙の色だからな。
灰色という色に包まれていると、俺はもっとカッコイイ男になれた気がするんだ。
灰色は白と黒の中間で、曖昧だと言われることが多い。
何言ってんだよ。このグレーゾーンがまたしびれるんじゃないか。
濃淡だけでカッコイイ組み合わせも出来るし、意外とどんな色にも合う万能色なんだ。
俺の人生には欠かせない。
灰色好きになったきっかけは、小さい頃、親父のふかす煙草の煙を見つめていたとき、灰色という色の存在に気付いたこと。
みんな煙草の煙を嫌がっていたけど、カッコ良くその煙を操る親父の姿にしびれたもんだ。
そして灰色はめちゃくちゃカッコイイ色だと気付いた俺はかなりの優越感を覚えたね。
その優越感は何物にも変え難い甘味だ。
灰色以外に素晴らしい色はない。
しかし、最近白にばっかこだわる男にこう言われたんだ。
「灰色なんて、汚らしい色じゃないか」とな。
俺は頭にキタね。
だから、ついその男を殴り飛ばしたんだ。
地面に転がったヤツのむかつく白いシャツが灰色になっていく様は見物だったぜ。
未だに嫌がらせはしている。
ヤツの部屋の壁紙に白に近い黄色のペンキをこっそり塗ってやったりな。
しかし、白い服の男を見かけると腹が立ってしょうがない。
まぁ薄い灰色の服だとすぐばれるから、黒に近い灰色の服を着て、カツラも着けて、夜になると白い服の男を懲らしめてやるのさ。
このグレーゾーンがまた快感なんだよね。
さて、今日も出かけるか。

2007-01-02

いつもの事ですから

はぁはぁ、なんだってアイツの家までの道は坂道ばかりなんだ。
アイツの家はものすごく遠い。
しかしこれも義務だ。
それに、あと少し。
まぁいつもの事だ。
道すがら、色々あったなぁ。
そう振り返りたくなるくらい、アイツの家までの距離はある。
これもいつもの事。
何せ、ちょうど一年はかかるんだ。
あ、そろそろ見えて来た。
蕎麦でも食べて腹ごしらえしたら、ラストスパート、かな?

2006-12-31

黒いシャツを着て、
黒い壁紙の部屋でくつろぐ。
私は黒という色が大好き。
休むために横たわるベッドのシーツも、陽を遮るカーテンも全て、艶やかな黒ばかり。
高貴で、全てを包み込んでくれる色だからね。
黒という色に包まれていると、自分はとても安らかな気持ちになれる。
基本的に黒という言葉は悪い場合に使われることが多い。
けれど、悪いのは黒という色ではないのだから、はっきり言って失礼な事よね。
高貴さ、高級感を表すのに黒という色は欠かせない。
黒を好きになったきっかけは、小さい頃、夜の暗闇を見つめていたとき、黒という色の存在に気付いたことね。
みんなは夜の闇に怯えていたけど、夜は外の世界を黒く塗りつぶしただけ、という事実に誰よりもいち早く気付いたの。
その優越感は何物にも変え難い甘味だったわ。
黒以外に素晴らしい色はない。
しかし、最近黒い服を着た女性が白い服を着た男性を殺していくという通り魔事件があり、犯人ではないかと噂されている。
迷惑だわ。
いくら黒が何者よりも強く美しく、全てを飲み込む色だとしても、黒という色に非は一つもないのに。
それなのに、何故なの!
このままでは、悪いもの=黒、の固定観念を払拭できないわ!
そうして私は黒が正しい世界を作るために、夜闇の街へ行くの。
いつまで待てば、犯人は現れるのだろうか。

2006-12-31

白いシャツを着て、
白い壁紙の部屋でくつろぐ。
僕は白という色が大好きだ。
手に触れる家具も食器も全て、曇りのない白ばかり。
清純で、柔らかくて、優しい色だからだ。
白という色に包まれていると、自分は全てにおいて正しい気がする。
基本的に白という言葉は良い場合に使われることが多い。
白無垢に白寿、勝ちを意味する白星。
優しさという言葉は白百合の花言葉だしね。
白を好きになったきっかけは、小さい頃、僕のクレヨンにだけ白のクレヨンがあった事だ。
この世には白という色が存在する、その事実に誰よりもいち早く気付いた。
その優越感は何物にも変え難い甘味であった。
白以外に素晴らしい色はない。
しかし、最近白に囲まれてばかりで、ちょっとでも黄ばんでいると気になってしょうがない。
白以外の色なんて要らない。
全てが純白に包まれたら素敵なのに。
それなのに、何故なんだ!
こちらの壁を白くすると、あちらの壁が黄色くなる。
なんてことだ。
そうして僕は純白の世界を作るために壁を磨く。
いつまで磨けば全ては純白になるのだろうか。

2006-12-30

---彼はただひたすらに真っ白な原稿を目の前に広げ、ひたとも言葉が浮かばない己の頭を抱えていた。そして---
「どうだい、調子は」
声を掛けられ、顔を上げると、にこやかに笑うクラスメイトがいた。
「…まぁまぁかな」
「そろそろお昼だ。学食に行こう」
「そうだな」
ペンを置き、席を立つ。
学食までの螺旋階段をのんびりと降りながら、壁にびっしりと収められた大小様々な書物を見上げる。
「やぁ相変わらず随分な量だ」
天の果てまで続く螺旋階段と壁と書物。
降り注ぐ知性の埃はきらきらと光る。
「まったく、小説家になんてしなきゃよかった」
「はは。大変そうだな」
「そっちのは?」
「一人は有能な大統領に、もう一人はその国を狙うテロリストの頭にしてやったんだ。時系列が一緒だからね。こうした方が話が運びやすくて楽しいよ」
「二人掛け持ちしてもそんな楽しみ方があるんだなぁ」
「まぁね。で、苦悩している小説家はどうするんだい?」
「入水自殺でもさせようかなと」
「定番だな」
「まぁね。そっちのが書きやすいし。ちょうどそいつと交際してる女の話を前の席の子が書いてるから、一緒に自殺させてやろうかと」
「ふーん?平気なの?」
「その子も息詰まってるらしいから、ちょうどいいんじゃない?」
「次は誰のを書くんだい?」
「小説家以外ならなんでもいいよ」
小説家の最期の台詞を考えながら、券売機のA定食のボタンを押した。

2006-12-29

世界なんてものは、広大であり、ちっぽけな箱に収められた、くだらない時間の砂である。
定義なんてものは、ふざけた価値観と、科学という人間の驕りに整合性をもたせた、狭苦しい箱に収めた濁った視界である。
神なんてものは、人間の臆病な欲のために作り上げられた、人間の形の箱に救いという夢を収めたものである。
人間なんてものは、その驕りと浅はかさを知らない、欲情を詰め込んだだけの箱である。
このやたらと高飛車に語られる説明すらも、ネットと呼ばれる狭くて広い箱の中に漂う一つの文章である。

2006-12-22

ある朝起きたら、視界が歪んで見えた。

真っ直ぐな筈の物には不規則な波、
人の顔のパーツは有り得ない配置、
なだらかな婉曲は弾けたようにギザギザ。

そういえば、こんな絵を描く画家がいたなぁと思い出す。
綺麗な長方形であった筈の鏡を覗くと、平凡な顔がおかしなことになっていた。
小さな目は大きく拡大され、左右の大きさもばらばら。
低い鼻はさらに低く、普通の大きさだった口は鼻よりも小さい。
耳もやたら大きいし、頭だって破裂しそうなほど大きい。

違和感あるけど、普通に生活が出来るあたりが不思議だ。
せっかく、こんな変な視界を手に入れたのだから、とあちこちを巡ってみた。

世界は面白い程に歪んでいた。
新しく出来たビルは真ん中からぽっきりと折れているし、
新品の新札は誰が汚したのかやたら汚いし、
街を歩く子供達の背後には常々真っ黒の手が後を付ける。

面白かったけど、流石に気が狂いそうで、毎日元に戻してくださいと祈りながら眠った。
一週間後の夜、目の無い神様が夢に出て来て、自分の眼をえぐり取って行った。
その夢から覚めた朝に、視界は元に戻った。
これでいいんだ。

神様の目が欲しいなんて、願うもんじゃないね。

2006-12-21

ナイフを持った手が震えていた。
ぎらついた赤い色が、自分を責めているようだ。
だって、こうでもしなければ。
私はとある男に監禁されていた。
見ためのいい、優しい男だった。
しかし、あるときから、男は豹変した。
機嫌の悪い時は暴力を、良い時はまるで子供のように。
どちらが本物の彼か分からないまま、ずるずると付き合い続けた。
彼は私の全てを拘束していた。
着る物から日々の予定、揚げ句、トイレの時間すらも。
嫌だった。
けれど、逆らえば殴られる。
私は逃げられなかった。
彼の口癖はいつも
「お前のためなんだ」
痣だらけの私を見つめて、どうしてソンナコトを言うのだろう。
果てた彼の側にナイフを置き、私は服を着替えた。
腕や首にくっつけられていた透明の柔らかい鎖を外し、淡い水色の、何の飾りもない服を脱ぎ捨てる。
肌触りの不思議な、それは素晴らしい装飾を施された服に着替える。
そう、これが着たかったの。
女ですもの。
棚の奥にしまわれていた化粧ポーチを取り出す。私が先程まで横たわっていたベットに腰掛け、鼻唄を歌いながらファンデーションを叩く。
アイライナーもきっちりと、引いた。
そう、これがやりたかったの。
女ですもの。
足元には、赤黒く染まりゆく遺体。
知らないわ、もう。
私はこの白い部屋の檻から出られるのだから。
颯爽と扉を開け、廊下を出る。
白くて飾り気のない服を着た女性達に呼び止められたが、知らないふりをした。
彼女らは私に嫉妬してるの。
ただそれだけ。
自由への扉を開き、私は走り出した。

2006-12-19

少年と猫

誰も知りませんでした。
少年は猫の頭を撫でる。
かの場所は、こんなにも寂しい事を。
少年は猫を抱きしめる。
彼は、一人暗闇の中。
少年は猫と座り込む。
オモイデをただ壁に見て、幸せを噛む。
少年は猫の前足を握る。
押し出された、幸せな記憶はもう尽きた。
少年は猫の額に頬を寄せる。
入口など初めから無いような暗闇を見つめる。
少年は猫を抱きしめる。
かすかに聞こえる音。
少年は猫を抱きしめる。
ラジオでいつか聞いた、古い曲。
少年は猫を抱きしめる。
だれかに救いを求める事は罪だと思い込む彼。
少年は猫の鳴き声に気付いた。
しらないだろう、神すらも。
少年は猫と眠る。
ての届かない暗闇は、ただただ冷たい。

2006-12-15

質問。

さて、皆様。
このような事を考えた事はございませんか。
アナタという存在、何処にいらっしゃいます?
あ、いや、
ごろごろと自室のベッドでくつろいでいるよ、とか、
今居る場所ではございません。
次元、の話です。
アナタ、ちゃんと自分で思考してますか?
自分の意志で動いています?
実は別次元の誰かが書いたストーリー上の人物であるとか、
そんなことありません?
アナタがソコで、存在している、証明は出来ますか?
あぁ、ワタシ?
ワタシはもちろんできますよ。
だって、こうやって文字の上でアナタに話し掛けていますから、
ワタシは文字の上にしか存在しておりませんよ。
正確に言えば、各駅停車に乗ったとある人間が、携帯電話のメール機能で暇潰しに書きはじめた文章の上の存在です。
さて、皆様。
アナタが何処に存在しているか、お答えください。

2006-12-15

黒い羊小屋

二次創作では「くろひつじ」名義で活動しています。

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