狐雨

シリーズもの異端見聞録

空は何処までも晴れて、果てしなく、きらきらと光っているのに、まるで梅雨時のように雫が線を引いていた。
「あ…雨?」
学校が終わり、いざ校舎から出ようとした、その時だった。
「晴れてるのに…何処から」
「天気雨だよ、牧野くん」
「あ、麻都」
昇降口で佇む俺の傍らに、いつの間にかそいつは立っていた。
「実に素晴らしい天気雨。いや、実に」
そう言って、麻都は空を仰ぎ見た。額に手を当てて、まるで遠くを見るように。
「素晴らしくもなんともねーよ。帰るこっちは大迷惑」
傘がなきゃ歩くのは厳しそうな降りようだ。
「すぐに止むさ。それに…」
「それに?」
「天気雨の時に一人でいない方がいいよ」
いつもへらへらした麻都の顔が、一瞬だけマジになった。
「な、なんでさ」
「お狐様の行列に入れられちゃうからさ」
…ちょっとだけ、真面目な答を期待した自分が馬鹿に思えた。
そうだ、こいつはオカルトとか大好きな変人だったんだ。
「これだけすごい天気雨だもんな、よほど偉いお狐様のお嫁入りなんだろーなぁ」
しげしげと空を眺める麻都。
クダラネー。
降り方が少し弱まってきたのを見計らって、俺は鞄を頭の上に乗せた。
「前から言ってるけど、その手の話は信じてねーんだからな!」
「…しょっちゅう心霊体験してるくせに」
「うるせ!…俺は帰るっ!」
「止むまで待ちなよ」
「お前と一緒なんてゴメンだっつの!!」
俺は晴れた空から降りしきる雨の中、校門の方へ走り出した。
「気をつけてね~」
背中に麻都ののんびりした声が聞こえた。

俺と麻都は小学校から高校までずっと同じ学校に通ってる、幼なじみというか、腐れ縁みたいな間柄だ。
あいつは昔からこの世のモノではない、所謂お化けとか怪談話とかが好きで。
なんでそんなモノが好きなのか、なんでやたら詳しいのかよく分からないが、昔からあいつの臨場感溢れる怪談話を聞かされていたのは事実。
お陰ですっかりお化け嫌いになったのだが、俺はどうやらお化けに好かれる体質らしく、怖いめに遭うことがしばしばあったりするのだ。
陽がきらきらと照っているのに、まるで滝のような雨のなか、俺はひたすら家路を急いだ。
傘の代わりに頭にかざした薄っぺらい鞄は、ぐっしょりと濡れている。中身がたいして入っていないのが、幸いだ。
通学路の途中にある、児童公園が見えてきた。
少し、休憩するか。
児童公園の出入り口付近にある、公衆トイレに駆け込んだ。
空は明るいのに、こんなにずぶ濡れで、なんか変な感じ。
さすがの雨に、いつもは子供で賑やかな公園でも、人っ子一人、いやしない。
…いい加減止まないもんかな。
すぐ止むと麻都は言っていたが、一向に止む気配は無い。
走ってきたので、疲れ果てた俺は、そのまま座り込んだ。と、その時、妙な音が聞こえてきた。
ドン…ドン…ドンドンッ
お祭で聞く、和太鼓のような、ピンと張った布が震える乾いた音。
シャン…シャンシャンッ
今度は沢山の小さな鈴が一斉にやかましく鳴る音。
…いったい?
街中でたまにお店の宣伝回りのちんどん屋を見たりするけど、すぐそこの通りをそのちんどん屋が練り歩いてるような様相だ。
こんな雨の中を?まさか!
今いる場所は、公衆トイレの壁があって、通りの方がよく見えない。
俺は気になって気になって、通りがよく見える所へ移動した。
で、すぐ、やめときゃ良かったと後悔した。

2007-01-22

黒い羊小屋

二次創作では「くろひつじ」名義で活動しています。

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