歩道橋

ショートショート短編小説

足の下で音がする。
車の行き交う音がする。
空気がピリピリと肌を撫でる。吐く息は白くて、夜の闇に消えていく。
僕は柵越しに見える、車達を見ていた。
赤いテールランプと眩しく光るヘッドライトの道が続いている。
この道の先に何があるのだろう。
僕はただ疲れていて、考えることが億劫で、光の道を見ながらそんなことを考えた。
あぁ、そうか。あいつもそんな気持ちだったのか。
僕より一足先に行ったあいつの気持ちが今ならよく分かる。
三ヵ月前、僕の携帯にメールが入った。
【疲れたんだ】
一言だけのメール。
意味が分からなくて、電話したら繋がらなかった。
次の日、あいつが死んだことを知った。
何不自由なく生きてきたはずなのに。あいつは疲れたから死を選んだ。
疲れたから死ぬなんて、馬鹿じゃないかと思った。
同時に、引き止められなかった自分も馬鹿だと思った。
でも、別にあいつはそんなに思い詰めたわけでもなく、なんとなく疲れたんだ。
僕も、疲れた。
ただ漠然と、疲れた。
ここに立って、流れる車を見ていると、自分だけ取り残された気分になった。
世間は早い。
追い付けなくて、追い付くのが面倒で、孤独になって。
なんだか、疲れた。
僕はいつのまにか柵によじ登っていた。
ただ、この疲れた感じから解放されたくなっただけ。
あいつもきっとそうだったんだ。
この倦怠感を払拭したくて、藻掻いて。
誰かに一言だけ、伝えたくなった。あいつもそんな気持ちで俺にメールしたんだろう。
でも俺はやめといた。
伝えられた人間がどうするのか、どんな気持ちで、どんなに気に留めないか、一度伝えられた自分がよく知っている。
柵の上に立った。夜なのにどこまでも明るい。
此処に休む場所はない。
此処に立ち止まれる場所はない。
そう思った。
そして、僕は飛んだ。

2006-12-07

黒い羊小屋

二次創作では「くろひつじ」名義で活動しています。

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